26.ロシュメイル城内へ

「――深色、ほらあれ、見てよ!」


「ふぇい?」


 唐突にクロムに肩を叩かれ、ようやく深色は我に帰る。


 クロムが指差した先に見えたのは、巨大な城砦だった。王都の中でも一際高い場所に構えているその城は、これまで見てきたどの建物よりも荘厳で、煌びやかで、美しかった。


 まるでダイオウイカの頭部を連想させる菱形の切っ先を持った巨大なメインタワーが中央に一基、更にその左右には、メインタワーよりも更に背が高い尖塔が一基ずつ伸びており、計三つの塔で成り立つ城の周りを、堅牢な城壁が楕円を描くようにして囲い込んでいる。その壁一面には水晶の粉でも塗してあるのか、まるで朝日を受けた海原のようにキラキラと輝き、壁伝いに等間隔で十基の城壁塔が並んでいた。


 まるで巨大な大理石の彫刻のようにも見える、乳白色の輝きを放ったその建造物は、まさに海の底に佇むタージ・マハルだった。


「あれが、王都の中心を司るモニュメントであり、王国の象徴でもある『ロシュメイル城』になります。お疲れ様でした、まもなく最終目的地に到着します。メインタワー内にある宮殿区画にて、アメル国王陛下がお待ちです」


 ドンガメはゆっくりと下降し始め、城壁の内側にあるメインタワーの出入り口前に広がる半円状の大階段下に着陸した。


 その階段には、中央に赤い絨毯が敷かれており、タワーの入口まで一直線に伸びていた。


「海の中だから泳いでいけるのに、どうしてわざわざ階段なんか作ったんだろう?」


 クロムがふとそんな疑問を溢す。


「見た目が良いからじゃないの? あの王様、何でも見た目が第一で、利便性とかはあんまり考えてなさそうな感じがするからさ」


 深色はそう言葉を返しながらドンガメを降りて、階段の上を滑るように泳いでゆく。


 階段を登った先、敷かれていた赤い絨毯は、そのまま矢じりの形にくり抜かれた入口へと繋がっていたが、入口の周りには警備兵らしき銀の甲冑を纏った兵士たちが巡回していた。


 更には、入口の左右に機械の四つ脚に支えられた球体状の巨大なロボットが二台控えており、頑丈な装甲で覆われた球体の頭上には砲塔が設置され、太い砲身を左右に振りながら周囲を警戒していた。


「……なんか、凄く物々しい警備だね」


「ボクらって歓迎されてるのかな? 少し不安になってきたよ」


 周りに漂うピリピリとした雰囲気を感じながらも、二人は入口の前までやって来る。


「おい! そこで止まれっ!」


 兵士の一人が階段を登ってきた二人を見つけて、携えていたライフルを構える。途端に周囲の兵士全員の銃口が二人に向き、左右に居た球体ロボットの砲塔も大きく旋回して二人に照準を合わせた。


「ほら! やっぱりボクら歓迎されてないみたいだよ」


 深色とクロムは周囲から向けられる警戒の目にたじろいでしまっていた。


 するとそこへ、入り口の方から一声が上がる。


「こらお前たち! 我の客人に対して無礼な態度を取るでない! 控えろ! 控えんか!」


 赤いマントを靡かせ、銀の大鎧を見に纏い、腰に大小の剣を携えた一人の男が、入口から泳いで来て兵士たちの間に割って入る。


 途端にその場に居た兵士たち全員が銃を下ろして退き、巨大な球体ロボットも砲身の先を二人から離した。


「いやいや、申し訳ない。此奴らの無礼をどうか許してくれ。遠路遥々よく来てくれた。さぁ来たまえ。応接室まで私が案内して差し上げよう」


 怖がっていた二人に優しくそう話しかけたのは、神殿に居たカニのカラクリがホログラムとして映し出していたアテルリア王国の国王アメル・ドランジ本人だった。


 ようやく王様と再謁見することができ、二人も胸を撫で下ろす。


「ど、どうも……ねぇ王様、あのロボットみたいな機械は何なの?」


 深色がおずおずと左右に控えた巨大な四つ脚の球体ロボットを指差す。


「あぁあれか! あれは多脚式戦車『タコツボ』と言ってな、あの巨大な砲塔からは合金すらもドロドロに溶かすほどの熱線を撃ち出すことができるのだ! あの美しいフォルムは我も気に入っている。どうだ、君たちもカッコイイと思うだろう?」


 そう問い掛ける王様に対して、二人は揃えて首を横に振る。


「全然」


「ずんぐりむっくりしてて気持ち悪い」


「そ、そんな!………」


 こうして、王様は二人の率直な感想を間に受けてしまい、また少しだけ傷付いてしまったのだった。

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