深度4000M 秘密組織ピュグマリオン

34.クロムの産みの親

「……でさ、深色。やる気満々でクラーケン退治に出かけたはいいけど、どこに奴が隠れてるのか、知ってるの?」


 王都の門を潜ってから約一分、クロムが怪訝な顔をして深色にそう問い掛けると、深色は肩をピクリと震わせて泳ぐ足を止めた。


 そして暫しの沈黙の後――


「……まぁ――」


「『まぁこのまま真っ直ぐ進めば、何処かしらにクラーケンに関するヒントが転がってるでしょ!』って、思ってるよね?」


 口を開こうとして、クロムに見事言い当てられてしまい、またしても深色は沈黙。


「はぁ……君の行き当たりばったりな性格も筋金入りだね。ボクも見習いたいよ」


「いやいやだってさ! 世界中の海が今、クラーケンが復活したせいで大変なことになってるんでしょ? それだけ最強な相手のことなら、王都以外でも確実にクラーケンに関する情報が出回ってるはずだよね?」


「う〜ん、まぁそうかもしれないけど……あ、だったらさ!」


 腕を組んで考え込んでいたクロムが、ふと思い付いたように言った。


「ここから少し先に、人間が管理している大きな研究所があるんだ。そこでは沢山の人間たちが働いていて、海の生き物だったり、海底のチシツ? だったり、色々と調査しているみたいなんだ」


「研究所? そんなのが海の中にあるわけ?」


「そう! 人間たちの働いている部屋には空気が一杯詰まっていて、溺れずに生活することができる凄い場所なんだよ」


 「ふーん……」と、深色は海の中にある研究所と聞いて、自分が小さい頃によく行った水族館をふと脳裏に思い浮かべた。


「でね、その研究所の所長さんは、ボクの生みの親でもあるんだよ」


 そう言われて、深色は「ふーん、そうなんだ……って、はいぃ⁉︎」とクロムを二度見して目を丸くした。


「生みの親ぁ⁉︎ まさかその研究所の所長ってシャチだったりするの?」


「ううん、違う。人間だよ」


 ますますよく分からなくなって、深色は混乱し頭を抱えていた。


「……まぁ詳しく言えば、それまでただの普通のシャチだったボクに、声と言葉と、そして『クロム』って名前を付けてくれた人になるんだけどね」


 そう言って、クロムはにっと鋭い牙を剥き出して笑ってみせる。


「ちょい待ち! シャチに声と言葉を与えるって、そんな漫画みたいな事一体どうやってできたのよ? ……まさか、猿に言葉を教えるような感じで調教したとか?」


 深色の問いに対して、クロムは「猿とは失礼な!」と怒りながらも、肩をすくめて答えた。


「よくは分かんないけど、ノウカガク? の実験とやらで、僕の頭を人間並みの賢さになるように脳ミソをちょちょっと弄った、とか何とか所長さんは言ってたよ」


「いやいやいや! それって完全にヤバい人体実験じゃない! あ、シャチだからシャチ体実験か? クロちゃん人間たちのモルモットにされちゃってるよ! その研究所の所長って人、絶対袖の長い白衣を着て丸眼鏡かけたマッドサイエンティストじゃん!」


 深色が大きな声で騒ぎ立てるが、クロムはそんな彼女の慌てた様子を側から不思議そうに眺めて首を傾げている。


「何びっくりしてるのさ? 別に僕は痛くも痒くもなかったし、次に目が覚めたら人間と普通に会話できるんだから、逆にもっと早くから所長さんに弄ってもらえば良かったって思ったくらいだよ」


「弄るって……脳ミソを?」


「うん、脳ミソ」


 深色は手術台を囲むマッドサイエンティスト達から頭を左右に開かれて、皺々でヒダだらけの自分の脳味噌をじろじろ見られる様子を想像し、ゾッとして身震いした。


「とりあえず、その研究所で社長さんに会って、クラーケンの居場所について聞いてみようよ。所長さんと会うのも久しぶりになるなぁ」


 そう言って、クロムは研究所の場所へと深色を案内し始めたのだった。

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