9.黄金の槍とアクアランサー
『これが、我が王国に代々伝わる
アメル国王は、まるで自分の買ったおもちゃを見せびらかす子どものように声を上げて、二人の前で槍の名前を明かした。
「……う〜ん、確かに見てくれはカッコいいけど、な〜んか名前がちょっとなぁ」
「うん、なんかありきたりだし、ちょっとダサいよね」
『そっ、そんな!……』
深色とクロムが何気無く放ってしまった感想に、国王のガラスハートはまたしても傷付いてしまう。
「でも感激だなぁ! 噂には聞いていたけれど、まさか本当に黄金の槍が実在していたなんて夢にも思わなかった……しかも、伝説の宝をこんな間近で見られるなんて、ボクらすっごくツいてるよ!」
クロムは槍の放つ輝きに目を奪われ、うっとりと
『う、うむ……まぁ名前はともかくとして、このアテルリア王国が約四千年もの間、争いの無い平和な情勢を維持し続けられたのも、この槍と、槍に選ばれし歴代の戦士たちによる健闘のおかげなのだ』
「槍に選ばれし戦士たち?」
深色は、国王の言葉を疑問形で復唱する。
『そうだ。お前たちも見たであろう。神殿の入口に置かれていた巨大な石像の数々を。あの一人一人が、この国を代々守り続けてきた勇敢なるアテルリア戦士たちの肖像なのだ』
深色はつい先程、神殿に入ってきた際に見たあの巨像群を思い出す。なるほど、国を守れるほどの勇敢な戦士なら、あれだけの巨像が作られるのも納得がいく。
『我が国では、降りかかる災厄から国土を守るべく、百年に一度、全国民の中から一人の女性が
アクアランサーとは、この
「ちょ、ちょい待ち!」と深色が国王の話を
「永遠の美しさって……それってつまりどれだけ時が経とうと歳を取らないってこと?」
ようやく話が盛り上がってきたところで水を差されてしまった国王は、若干表情に不満を
『その通りだ。永遠の若さと美しさ、そして若さゆえにあふれ出る活力をこの槍が与えてくれる。そのおかげで、アクアランサーは百年もの間、老いによる体や力の衰えに悩まされることなく、我が国の国防に専念することができるのだ!』
(ふ~ん……そうかぁ、だから神殿の入口で見た石像の女性は、みんな美人でおっぱいが大きかったのか)
それまでどうしてだろうと不思議に思っていた謎が解けて、大いに納得し頷く深色。
しかし、まだ一つだけ納得のいかない疑問が残っていた。
「でもさ、何で女性なの? 男の方が力は強いし、戦士って言えば普通、筋骨
『それは我にも分からぬ。なぜなら、民の中からアクアランサーに相応しい者を一人選別するのは我ではなく、この
国王はそう答え、目の前に突き刺さる黄金の槍を指し示した。
「え〜、じゃあ雄のボクは戦士に選ばれないってこと? なんかそれって男女差別のような気がするんですけど」
クロムが批判するも、国王は『し、しかし、こればかりは我にもどうにもならんのでな……』と、もじもじしながら言葉を詰まらせてしまう。
「まぁでも、人間の世界でも力士さんとか巫女さんとか、伝統として古くから続いてる役職って、意外と性別固定なこと多いからねー。やっぱ海底人でも同じような伝統があるんだなぁ」
「ちょっと、なに一人でちゃっかり納得しちゃってるのさ」
自分が雄であるという理由でアクアランサーになれないと知ったクロムは、隣でうんうんと首を縦に振って納得している深色に向かって不満そうにぼやいた。
すると、アメル国王は再びコホンと咳をして態度を切り替え、真剣な眼差しを深色へと向ける。
『――さて、では人間の娘よ。そなた、名は何と申した?』
「ほぇ? 私? ……瑠璃原深色、ですけど……」
深色は国王から今更名前を問われて、おずおずと自分の名を伝える。
『うむ、では、
国王は一息の間を開け、それから深色に向かってビシッと指を突き立てると、一つの問いを彼女の前に提示した。
『そなた、このアテルリアを護る美しき海の
「…………は、はい?」
深色は目を丸くして、ぽかんと口を開けたまま固まってしまう。
『今、我が王国には、国の守護神であるアクアランサーが不在の状態なのだ。見ての通り、持ち主の無きこの槍は、このように狭い部屋に置かれたまま
この槍は新たな主人を求めている。そして槍に選ばれたそなたこそ、この槍の持ち主に相応しい。そなたがアクアランサーとなり、この国を
――深色は、国王からそう
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