5.海底をゆく
クロムの背中の上で地獄のようなスーパーライドをこれでもかと体験させられ、散々振り回されてしまった深色。ようやく海底の岩陰にあるクロムの隠れ家まで案内される頃には、もう三半規管を完全にやられて、やじろべえのようにゆらゆら体を左右に揺らしながら目を回してしまっていた。
「ハイ到着! ここがボクの秘密の隠れ家だよ」
岩陰にぽっかり
その穴は、まるでドリルで掘ったように綺麗な円を描いており、直径は七、八メートルあるだろうか。穴の下には、底無しの
「どう? 凄いでしょ。でも驚くのはまだ早いよ。この下にはもっと凄いものがあって――」
隠れ家の秘密を自慢げに語り聞かせようとするクロム。しかし、彼の背中で目を回してしまっていた深色は、そのまま背中から剥がれ落ちて、穴の中へ真っ逆さまに落ちていく。
「あ、ちょっと深色、人の隠れ家に勝手に入っちゃ駄目だよ……ってあれ? 深色っ⁉」
意識もうろうとしたまま穴の底に見えなくなっていく深色を、クロムは慌てて追いかけていった。
穴は何処までも深く、底の方には煮詰めたように濃い闇がどんよりと広がっていた。下へ下へと引っ張られていくような感覚が、飛行機事故で落ちていった時の記憶を、深色の脳裏に蘇らせる。
(あれ? まただ……私、一体何処まで落ちていけばいいんだろ?……)
二度目の落下を体験する中で、深色の意識は徐々に遠退き、その身を闇の中へと溶かしていった。
○
(……………っ……ここは?)
気が付くと、深色は柔らかな砂の上に仰向けになって倒れていた。辺りは真っ暗で、真上には夜空に浮かぶ一番星のように小さな光が見えていた。あれが、さっき自分が落ちてきた穴なのだろうか。深色はそんなことを思いながら寝ぼけ
「――あっ、やっと起きた。何も言わずに落ちていくから、本当に死んだのかと思ってヒヤヒヤしたよ」
すぐ近くで、姿は見えないがクロムの声がした。深色はゆっくり起き上がると、自分の体にやんわりと
「……へえぇ、水の中って意外と気持ちいいんだね。なんかふわふわして、ひんやりしてて、気持ちいい……」
「全く君は呑気だなぁ。もしこの穴がもっと深くまで続いていたら、君は伸し掛かる水圧でペシャンコになっていたかもしれないんだぞ」
クロムが脅すように警告するが、深色はそんな言葉なんてどこ吹く風で、「まぁ、結局こうしてまだピンピン生きてるんだから、何とかなるよ」と言い聞かせて立ち上がり、辺りを見回す。
「さてさて、随分と深くまで落ちて来ちゃったけど、ここってどの辺りなんだろ? もう地球の真ん中くらいまで落ちて来ちゃったのかな? さっきからクロムの声は聞こえるけど、真っ暗で何処に居るのか全然見えないや」
深色はそう言って、目の前に広がる闇の中に目を凝らしてみる。
「何言ってんの。こんなところはまだ浅い方だよ。ほら、明かりを持ってきてあげたから、これを持って」
クロムの声がして、それまで闇に紛れて何も見えなかった視界に、パッと青白い光が広がった。
すると、深色の目の前にクロムの大きな鼻が照らし出された。彼の開いた大きな口から、その青い光は漏れていた。よく見ると、鋭い牙の並ぶ口の中に、まるで蛍のように発光している風鈴のような丸くて青い花が一輪、舌の上に乗せられていた。
「はいこれ。『ランプフラワー』って言うんだ。これがあれば明かりには困らない。ボクらは普通に暗闇でも見えているんだけど、君にはこれが無いと何も見えないでしょ」
深色はクロムの口の中にあるランプフラワーを恐る恐る手に取った。すると、青白い光がより一層強く光り始め、瞬く間に周囲の闇を払ってゆく。
「へぇ~、すっごく綺麗……こんな花、初めて見たな」
「その花も、君が被っているオキシクラゲも、ある場所はボクらにしか分からないんだ。多分、地上の人間に発見されたことはまだ一度も無いんじゃないかな?」
「えっ、じゃあ人間でこのクラゲを被ったり、花を見るのはあたしが史上初だってこと? じゃあ、この花をお土産に持って帰れば、あたし有名人になれちゃうかも⁉」
そう言って目を輝かせる深色だが、クロムが呆れたように言い返した。
「ダメダメ。その花もクラゲも、海の外へ出した途端に
深色はランプフラワーを地上に持ち帰れないと知って落胆しながらも、クロムに従ってその花を松明のように持って前方へかざしてみる。
すると、まるで城壁のように
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