6.海底に眠る神殿
「凄い、岩の中にお城が建ってる……」
「何百年も前に、この海域の支配者であるアテルリアの海底人の祖先が岩を削って造り上げたものらしいよ。でも、どうして造られたのかとか、そこらへんの詳しい事情はよく分かんない。この神殿を抜けた先に、ボクの秘密の遊び場があるんだ。ついて来て!」
クロムはそう言って神殿の入口から中へと入ってゆく。
ランプフラワーに照らされ、青白い光の中でどっしりと
(こんな馬鹿デカい建物を岩の中に造っちゃう海底人って、一体どんな奴らなのよ……)
深色は
「おーい深色、何やってんのさ。早く来てよ!」
クロムに急かされ、深色は神殿の奥へと続く長い階段の上を泳いで通り抜ける。それまで闇のベールに包まれて眠っていた神殿の光景が、深色の持つ灯りを前にその
長く伸びている通路は、高さが優に十メートルを超えていた。そして左右の壁には、分厚い鎧に身を包み、剣や矛、盾を携えてポーズを取る戦士たちの巨大な石像が
その壮大なスケールに深色は息を呑んだが、進んでいくにつれて彼女はふとあることに気付く。
通路に置かれた戦士像はどれもこれも全てが女性で、男性の像は一つも置かれていなかったのだ。
「このいかにも暑苦しそうな格好してる人たちは誰なの?」
「そんなのボクに聞かれても分かんないよ。多分、石像にして残すくらいだから、過去にこの海で活躍して歴史に名を連ねた偉人たちじゃないの? ボクは誰一人として知らないけどね」
(歴史に名を残した偉人で、おまけにこんな美人でみんなおっぱいが大きいのに、意外と認知はされていないんだな……)と、深色は物欲しそうな目をして石像の胸と睨めっこしていた。
「……いや、知らないのは単にクロちゃんの歴史に対する知識が浅いだけなのかもしれないし、実際はやっぱり有名なのかも……」
「なんか言った?」
「ふぇい⁉︎ い、いや、なんでも無いっす……」
知らず知らずのうちに考え事が口から漏れてしまっていたらしく、こちらをキッと睨み付けてくるクロムに、深色は慌てて首を横に振った。
通路を更に進んでいくと、やがて開けた場所へ出た。長方形に伸びた広大な空間。その広間の手前から奥にかけて太い石柱が何列も等間隔に並び、天井には半円状のアーチが無数に入り組んだ複雑な幾何学模様を描き出していた。
深色は、以前学校の図書館で偶然手に取った世界遺産の写真集に、これと同じような作りをした建物が載っていたことを思い出した。建物の造りが似ているということは、地上に住んでいる人たちも海底に住んでいる海底人たちも、似たような建造技術を持ち合わせていたのかもしれない。
「……ねぇクロちゃん、海底人たちって、みんな私と同じような人間の姿をしてるの?」
「うん、格好は人間とほとんど変わらないよ。ボクたちは海に住む彼らを『海底人』って呼んで、地上に住んでいる『人間』と区別しているんだ。海底人たちは泳ぎがとっても上手くて、凄く頭が良いんだよ。特にアテルリア人と呼ばれる海底人たちは、君たち人間より数倍も進んだ文明を持っているんだ」
「へぇ〜。なんか、ちょっと羨ましいかも……」
広間に行くまでの通路で見かけた石造の美貌と体型も相まって、深色は海底人の女性が自分の理想とする女性像の全てを兼ね備えていることに気付き、ちょっぴり嫉妬心を露わにした。
連なる柱と柱の間を滑るようにくぐり抜けながら悠々と泳ぎ回っているクロムを横目に、深色は広間の奥へと進んだ。しかし、突き当たりには古ぼけた壁があるだけで、どうやらここで行き止まりのようだった。
手に持っていたランプフラワーを壁にかざしてみると、壁には無数の絵文字の羅列が円状に刻まれていて、その文字列は幾重にも渡って波紋のように広がっていた。
そして、円の中心には何やら目の形をしたマークが彫られていて、その瞳は固く閉じられている。
「何これ? 気持ち悪ぅ……」
そう独り言ちて深色が壁に手を伸ばそうとすると――
ガコンッ!
「ひいぃっ⁉︎」
突然壁に彫られた目が開いたので、深色は思わず声を上げた。
目蓋が開かれ、そこから覗いた目玉がギョロリと深色を睨み付ける。そして、壁の奥でブウゥン……と何かが起動したような音が聞こえて、目玉の瞳が赤く光り始めた。
「――ちょっと深色、何か変なことしたの?」
背後から泳いできたクロムにそう疑われて、深色は顔を引きつらせた。
「あれっ……私、今何か変なことしちゃった? 何かヤバいことになるの、これ?」
「ボクに聞かれても困るよ。だって深色がここに来るまで、この壁がこんな風に反応することなんて無かったんだもん」
すると今度は、赤く輝く目玉からレーザーのような光が放たれて、深色の体の隅々を
「……なんか、服の内側まで誰かにジロジロ見られてるような気がするんだけど……」
「スケベな目だな」と、隣に居たクロムが呆れたように言った。
すると、スキャンが終わったのか、深色に当てられていたレーザーが消え、目玉の瞳の色が赤から青に変わった。壁の内側で歯車の回るような音が聞こえ始め、壁に刻まれた幾重もの文字列の一段一段が、それぞれ異なる方向に、異なる速度で回転を始める。
そして、全ての文字列が
――深色とクロムは驚きのあまり声を失った。それまで行き止まりだと思っていた壁が実は扉であり、開いた扉の奥には、また新たな部屋が続いていたのである。
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