第5話 花屋通い
それからわたしは、ほとんど毎日プールへ行くようになった。そのうちの三回くらいは花屋によった。
小学生にも人間づきあいはあった。プール帰りに友だちと駄菓子屋へよるのが常で、少ない小遣いをくじ引ききなこ棒やくじ引きキャンディ、五円玉チョコやよっちゃんいかなどに費やした。
くじ引ききなこ棒は爪楊枝に硬い団子のようなものがきな粉にまぶされへばりついているのだけれど、それを食べると、たまに爪楊枝の先端が赤くなっていることがあった。これが当たり。当たりがでると嬉しくて、また出ないかなと次々食べてしまう。この硬いのにやわらかい触感がなんともいえず、まぶされていたきな粉もほんのり甘くてくせになった。
くじ引きキャンディは長い紐につけられていて、どの紐がどのキャンディにくっついているかわからない。たいてい三角の小さなキャンディがあたってしまうのだけれど、たまに大きいのが釣れると嬉しかった。
そのお店では、夏場はラムネやかき氷なども売られ、ヨーヨー釣りもできた。
友だちと駄菓子屋へ行くのはすごく楽しい。
けれどもわたしは、お姉さんに会いたかった。お姉さんには、誰にも内緒で会いたかった。
わたしは友だちに言い訳をして、駄菓子屋を早くにきりあげたり、断ったりし、花屋へ通った。
お姉さんとの時間は、友だちと遊ぶのとはまるで違っていた。お店の花の名前や花言葉をいくつか教えてくれ、小さく切った緑色の発泡スチロールのような塊を水でひたし、そこに花を飾るのを教えてくれた。
お姉さんからはいつも、やさしい甘い香りがした。
友達からは最近付き合いが悪いととがめられたけど、気にもならなかった。
ときどきお店に行ってもお姉さんがいなくて、代わりに吊り目の花屋にはちっともふさわしくないトンボのような顔をしたおばさんがいることがあった。その人のときには素通りした。お姉さんがいても、そのおばさんがいたら立ちよらない。お姉さんも、そのおばさんがいるときは店の中で忙しそうにしていたから、わたしには気づかなかった。
小夏はいつまでもわたしの部屋で笑っている。ひまわりの花言葉は「あなただけを見つめる」という。
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