第4話 小夏と部屋とお父さんと

 夜、小夏を眺めたりつついたりしていると、父が突然部屋に入ってきた。

「宿題、やったか?」

「え、びっくりした。お父さん、急に入ってこないでよ」

 あからさまに嫌な顔をしたつもりだったのに、父はまったくお構いなしといった様子で部屋に入りこんでくる。

 机のうえに置かれたひまわりを物珍しそうに眺めながら、「なんだよ、入ってきちゃ悪いのか」と花瓶ごとそれを手にとった。

「別にいいけどさ、その花には触らないでくれる?」

「なんでだよ」

「なんとなく」

「この花は、どうしたんだ」

「プールの帰りにお花屋さんでもらったんだよ。小さいけど、ひまわりだよ」

「ずいぶん小さいな」

「これ以上大きくならないんだって」

「へぇ。でも、こんなんじゃ種もならなそうだし、酒のつまみにもならないな」

 それだけ言い捨てて、父は出て行った。

「あぁ、もぅ」

 どうして世の父は、いつも娘の夢を壊すようなことばかり言うのだろう。こんなに小夏はかわいいのに。

 父はいつも気紛れにやってきて、どうでもいいことを言って部屋を出ていく。ときどきドアをこっそり開けてこちらをただじーっと眺めて出て行くこともあった。それがわたしには煩わしくてならなかった。それを言うと父はいじけてしまうので、最近は放っておいている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る