第3話 はじめてのお花屋さん

「あら、プール終わったのね」

 お姉さんは穏やかなやさしい声で、わたしに話しかけた。

「いっぱい汗かいたでしょうから、ちょっと上がっていって。ちょうど誰もいなくて、わたしも退屈してたのよ」

 わたしは言われるままに、花屋の中まで入っていった。

「うわぁ」

 花屋のなかは、おしゃれにアレンジされた花たちがそこここに置いてあった。

 花屋になんて、年に何回来たことがあったろう。お母さんに連れていってもらったことが何回かあったけれど、だいたい花が数本ずつつっこまれたバケツが置いてあるだけで、あまりオシャレだと感じたことはなかった。私が小さいころの花屋は、そんな個人店がほとんどだったと思う。客のほうだって、お盆に菊のセットを買うくらいしかしなかったんじゃないだろうか。昔の花屋の記憶には、あまり華やかなイメージがなかった。

 だからわたしは、お姉さんのこのお店で、生まれてはじめてフラワーアレンジメントをする花屋を知ったんだと思う。

まるで、魔法の国に来たみたいだった。たぶんアレンジした人のセンスが一番大きかったんじゃないかな。

 ふつうに華やかに飾ってあるものもあれば、どこかちょっとした野花をこじんまりと飾ったものもあったし、雄々しいというか凛々しいというか迫力のあるものもあった。不思議な形をしたビンに挿してある花もあった。針金に巻きつけられてこちらを睨んでいるような花もあった。まるでアートの世界だった。

「これ、お姉さんがしたの?」

「ううん、違うわ。わたしがやったのも、いくつかはあるけど。こういうの、面白い?」

「はい。素敵だと思います」

 お姉さんはフフフと笑って、おかってからかき氷を持ってきてくれた。わたしはギザギザの形をしたスプーンを使って、ガリガリと氷を削って食べた。まんなかにバニラアイスが入っていて、このかき氷とアイスの境目を食べるのが醍醐味だ。スーパーで安売りしているかき氷だと知っていたけれど、お姉さんから手渡されると特別な味がする気がした。

「お姉さんは、食べないの?」

「わたしはもう、食べたのよ」

「へぇ」

 それからお姉さんは、鉢植えのお花や外に植えてあるお花に水をやり、花瓶の水を換えたりしていた。わたしも小さな軽いものの水換えを手伝った。

帰りに小夏を三本もらった。わたしは少し得意そうにへへとニヤニヤしながら家に帰った。

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