最終話 また明日
「…………えっまじ」
錆びついたブリキ人形のように、鈍い音でも立てるかのように振り向いたアオイは今までのシリアスなムーブを完全にぶっ壊すほど赤面し、最後かもしれないと覚悟を決めていたはずの千春は毒気を抜かれて渋い顔をした。
「違くない? そこはなんか違うでしょ。今までの流れからこんな風になるの普通?」
「友達として? それとも恋愛的なそっち方面の……」
いきなり立ち上がると今まで以上に食いかかって問い詰める彼に「言わなければよかった」とウザさに耐えかねながら距離を取ろうとすると、
「あぁ、いた!」
遠くの方からした声に反応して両者共に視線をやると、そこにはカスミを筆頭にアオイに関係する少女たちが団体様で到着していた。
「いきなり何を言わずに出て行こうって正気?」
「お前狂ってんのか!」
「私の了承なしで逃げられると思うなよ」
「だいたいこんなもんだと思いましたよ」
そして黙って消えようとしていたアオイを問い詰めるようにして近づき、会わないためにここまで手の込んだやっていたというのにその全てが崩壊するのを恐れたのか、それとも報復を恐怖したのかは分からないが、両手を前に出して降参らしき格好をとったまま後退するアオイ。
けれど彼女たちがこれ以上逃げようとする彼を見逃すはずはなく、まんまと掴まれて組み伏せられそうになったその瞬間、
墓標の角に頭を打って意識が消滅。
「あっぁああああ!」
糸の切れた人形のようにグッタリするアオイを掴んだまま、頭から血を流している彼を目にしててんやわんやする少女たち。
次はどうするべきかと人形のように投げられて責任のなすり付けあいが始まっていると、
「まぁまぁ人が多いことで」
彼女たちの背後からやってきた一人の女性アオイの姉であるサラは、死にかけのアオイと、彼の母親の墓標と彼を取り巻く女性陣へと目を向ける。
「こんなに人がいるってんじゃ……私の都合一つでどうにかなるもんじゃなさそうだな」
(あなたの息子は人から必要とされる人間みたいですよ、義母さま)
無駄に多い女性陣に対して少しばかりため息をついてから、
「ひとまずそいつはここに置いておく。ただ卒業後にフラフラしているようなら私が連れて行くから、連れて行かれたくなければ分かっているよな」
白目剥いて気絶しているアオイを指差してからそう言うと、これで面倒事は終わりだと去っていく。
「あぁーーあ。損な役回りだな」
■
「うぅ…………なんか痛い」
ようやく目が覚めたアオイは自分が引き摺られていることを自覚すると、引きずっている主である千春へと顔を向けた。
「ここ最近の記憶がないんだけど、俺なんでお前に引きずられてんの?」
「……なんも覚えてないの?」
「うん」
その言葉に掴んでいた手を離した千春は何処か嬉しそうな顔をして、
「それじゃあまた、いつも通りでいい?」
「いや何のことかわからんて」
「また明日も学校行って、いつも通りの日常ってこと」
「そうじゃねぇの。知らんけど」
記憶がなくなったことは結果的に良かったのかもしれない。
おそらくここまでの騒動に発展したことを、記憶を失くす少し前のアオイなら絶対に後悔している。
そしてどのような行動に出るかは予想がついてしまっていた。
「じゃあまた明日」
「おう」
だからこれでいい。
これでまた、いつも通りの日々に戻る。
もう一度振り向かせるところから始めるのだ。
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