第22話 覚悟
「よくわかんねぇんだよ」
亡き母の墓標を前にして線香の煙を仰いで消し、静かに立てかけて煙を促す。
そして持ってきた花束を備えると誰もいないというのに口を開いた。
「みんな変わった。最初は一人じゃ立つことすらできなかったアイツらが、今じゃ一人で頑張ってる」
少しずつ、分かっていた。
いくらアホの彼でも周りの人間が成長して自立していくのを感じることくらいはできる。
そして妹が自分の意思でやっていると告げた時、彼には今まで感じていた不可解なものの正体が露見した。
「なのに俺は…………何も変わっちゃいない」
立ち昇る煙に淋しい背中。
彼は変わるまいとした。
ずっとそこにいると決めた。
泣いている少女に自分がしてやれることを探し、結局何もなかったからそこにいることにした。
慰めることもできない。
現状を打破してやれる画期的な策が用意できるわけがない。
夏目アオイに人を救う力はない。
ただそこにいることしかできない。
「アイツらはもう、俺がいなくても十分やっていける…………なのに、俺は離れたくないって思い始めた」
理由など分かるはずがない。
自身の想いに言葉をつけられるほど彼の頭は良くできていない。
「俺はアイツらの優しさに甘えて潰れる。これからの失敗を、これから先の人生の分岐を、その全ての責任を、他人に押し付けたくないんだよ」
だから逃げた。
彼女たちに会えばきっと揺らいでしまう。
「まぁいいや」と、適当なことで濁して先送りにしてしまう。
だがそれではダメなのだ。
夏目アオイの人生の責任を彼女たちに背負わせるべきではない。
「俺は…………」
「やっぱりここにいた」
後ろから聞こえてきた声に振り返ることなくその名を当てる。
「千春か」
「どうせこんなことだろうと思ったよ」
小さくため息をついて。
「あなたはどんなに切り捨てようとしてもそれができなかった。だからせめて私たちに背負わせないために、そしてこのまま去る決心を鈍らせないために会おうとしなかった」
「幼馴染には敵わないな」
ずっと見てきたから。
アオイの横で、誰よりも長くそばにいたから。
今何を考えているのかくらいは理解できる。
「でもな、無理だ。俺は行かなきゃいけないんだよ」
遠い目をして口を開く。
それはどこか虚しいもので、そんな彼を引き止めることはできないと千春にも分かっていた。
だけど、
「私はアオイが好きだよ」
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