第16話 NEWアイテム


先日の無限に写真が届く事件を経て、アオイの携帯は完全に大破した。


なので携帯が無いと成り立たないように作られている現代社会を生き抜く事は困難なため、即時購入を促されて、本来なら大事な休日を潰したく無い気持ちの板挟みにあいながらも携帯ショップへと行くことになった。


「いらっしゃいませ、本日はどのような」


地元に突如として出現を果たした大型ショッピングモール。

その内部に我が物顔で居座っている系列会社の携帯ショップに訪れ、これが「心にも無いのに上から強いられる笑顔か」と、ビジネススマイル、営業用の鉄仮面を被った店員が『絶対に逃がさない』とばかりに椅子をひいてきた。


ここまでグイグイ来られると多少躊躇して「また来ます」と一旦帰ってしまいそうなもので、かく言うアオイも同じように撤退しようかと考えては見たものの、背後に回った別の店員が優しく肩に手を置く、


「お客様、どちらへ?」


「ちょっと……ね? ははっ」


(なんか怖くない?)


すかさず背後に周り、絶対に逃すまいとしてくる店員の行動に不信感、もといい恐怖を覚えたアオイは後日改めて覚悟ができたら、と一旦帰宅しようと考えて、


「お客様? 一旦出るだけ……ですよね? またすぐに帰ってくるという事で、偶然この場でトイレに行きたくなったから仕方なく出るだけで、本当は契約したくてしょうがない? それでよろしいでしょうか?」


「……えっ、なに、怖い。違うよ、帰る」


「いえいえお客様、我々店員は怖くなんてありません。ただここに一筆、すぐに帰ってくるから、そうじゃなかったら絶対に──腹切って死ね」


黙るしかなかった。


上司の圧力と、これからの昇進。

なによりノルマをこなさなければならない大人の覚悟とやらをみくびっていた。


「じゃあちょっと出るだけなんで、離してください。この手」


「嫌です。逃げたらノルマが達成できないじゃないですか? お客様には今月の残り十数人分契約していただく人ばし……生贄となっていただくのですから」


「何も変わってませんよ。人柱から生贄になっただけで、やってる事される事何にも変わってないじゃないすか」


「ははは、おかしなことを言う」


(ええぇ……なにこれ、俺が間違ってるの? 人間ってこんなに他人を蹴落とすのに躊躇ない魔物だっけ?)


腕を掴んで引き離そうとするが後のない大人の馬鹿力によって封じ込められ、そうこうしている内に新たな金ズルを見つけた他店員によって四肢を拘束されて椅子に括り付けられる。


すると、


「なんだ君も被害者……契約者か」


横の座席に座って別の契約を行っていたサラリーマンらしき男性が同じように鎖で繋がれて、しかも生気を失ったゾンビのような顔で仲間の来訪に心からの祝福を見せていた。


だが完全に死人。

ひどい隈に痩せこけた頬、色白の身体は老衰前の老人のよう。

けれど無駄に大きいスーツが数刻ほど前は善良な一般市民だったであろうことを表しており、ここに契約を強いられた結果痩せてしまったのだと知らせてくる。


「お前……大丈夫なのか? その顔、もう死にかけじゃないか!」


「はははっ……大丈夫? その言葉はもうたくさんだ『大丈夫、契約しても大丈夫。死にはしない』はははっ、はははぁ…………死にたい」


こうやって大人の社会は成り立っている。

その地獄の鱗片を垣間見て、立ちまくる鳥肌を必死に抑えようとするアオイだったが。


そのサラリーマンの髪の毛がゴッソリ抜けた。


よくCMとか広告にすね毛がどうとか、身体中の毛を脱毛するクリームとかがあるが、あくまでムダ毛を処理しているだけであって、髪の毛は別だ。

なのにここの契約は髪の毛までもを永久脱毛する。


「お前! 死ぬなぁぁ! まだ生きろ、いいことあるって!」


全力で駆け寄りたい衝動に駆られるが、今のアオイも彼も鎖をがんじがらめにされている。

本来なら抱きついてともに悲しみを泣き叫びたいところだが、それすらもさせてくれない。

どこまでも非道で人間の心がない携帯ショップである。


「それではお客様、今回のご要望は?」


「あ、あぁ。そうだった。携帯が壊れてその買い替えを」


今までの突拍子もない出来事の数々に何しにここまできたのか分からなくなってきたが、携帯の買い替えに来たのだ。

そう思い出すと縛られている肩を外し、ポケットの中に入っていた破損した携帯を机の上に放り投げる。


「……一体何が」


基本的に携帯の破損。と言えば画面が割れた、車にやられて粉砕した、トラクターで木っ端微塵などが当てはまるものだが、アオイの出した携帯はそのどれにも当てはまらない『内部から発火した』ものだった。


「お客様? これは一体……」


「メールがいっぱい届いてな、いろいろあってこうなった」


何をどう色々あったらこうなるのだ。

あくまで一般社会を生きている店員には分からない壊れ方をした携帯に触るのすら嫌になってくるが、ここで弱みを見せれば契約ができない。


(なんだこれ。ロードローラーで轢かれたとか、ジェット機突っ込んだとかならまだしも内部熱から爆発って、一体何やらかしたらこうなるんだ)


中々お目にかかることのない壊れた方をした携帯を眺める店員に、さっさと帰りたいと思って呆けていると、


「ぎゃああああああ! 嫌だぁあああああ! 死にたくない、死にたくないぃああ!」


隣の席に縛られていたはずのサラリーマンが我を忘れたかのように叫び始め、括り付けられた椅子ごと倒れると悪魔に憑かれたように呻き声を上げて暴れ始める。


「あのお客様を取り押さえろ!」


「クソッ、これ以上の契約は無謀だったか!」


「まだいける! 後一つなら可能です!」


「構わん、いけ」


「ぎゃぁぁああああああああああ!」


椅子の足を掴んで暴れるサラリーマンを店内の暗い奥の方に連れて行く店員達の姿を固唾を飲んで見送り、今のはなにかと目の前の店員に目を向ける。


「はっははははははは」


「……あれなんすか」


「はははははははははははははははははは」


「なんで! 答えてよ! あれはなに! 絶対やばいもんだったでしょ! 俺はこれからどうなるの?」


「お客様、世の中には知らない方がいいこともある。大人になればわかりますよ」


「いやあれはどう見ても知らなくていいこと、じゃなくて知っておかなきゃいけないことでしょうが」


もうこんなところにいられるか。

そう言って逃げようと椅子が括り付けられたまま走っていくが、すぐさま現れた増援によって暗くて怖い場所へと連れて行かれた。


その後彼を見たものは、

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