第8話 学校サボってゲーム買う

好きなゲームの続編が出た、となれば必ず買いに行くのがオタクである。


その例に埋もれることもなく、アオイもそう言った人種の仲間で発売が決定した時には大歓声をあげ、タンスの角で小指を強打したこともある。


あの頃の泣き叫ぶ勢いは一応置いといて、あれから発売を待ち望んだゲームをようやく買おうと腹を括ったまでは良かったが、買うには多くの問題が発生している。


まず学校に行っては買うことができないのだ。


人気のタイトルと言うこともあってか品薄は確定、早い者勝ちでしか入手が不可能なのに対して学校が終わってからノコノコとやって来ては買えるもクソもない。

完全に根こそぎ持っていかれた陳列棚をみて泣き叫ぶことしかできない苦労なら散々味わっているので、同じ目には遭いたくない。


そのため学校をサボって買いに行くしか入手する方法はない。


「腹括れ。学校とゲーム、どっちが大事かわかるだろ」


※学校です。



覚悟を決め、もう引き返すことはないと玄関の扉を開けて勢いよく前に飛び出すと。



死角から飛び出して来たトラックによって吹き飛ばされた。



横腹から脊髄にかかる衝撃。メキメキと人体で最も鳴ってはならないであろう音が、内部で走馬灯のように木霊するのを感じながら地面に叩きつけられる。


「がっはぁ………………」


そして車で吹っ飛ばした張本人はと言うと、宙を舞うアオイの姿に一瞥もくれることなくバックれ、見事にひき逃げを実行した。


犯人へ向かって中指を立て、何本かへし折れたであろう肋骨を押さえながら、まだ肋骨あるから大丈夫だと自身を奮い立たせて立ち上がる。


(足が折れてないならいける)


頭から血を流している彼を近隣住民は忌むべきゾンビのような眼差しと、若さゆえの無茶振りに救急車でも呼んでやろうかと恩をチラつかせるがそうはいかない。


救急車に乗ってしまえば確実にゲームは買えず、病院で入院なんて事になればネットが使えずに動画サイトとインターネットの巡回ができなくなる。

それだけは絶対に避けなければならないと、今もなお受話器に手を伸ばしそうになっている近隣住民へと殺意のこもった視線を突き刺して動きを止める。


邪魔するんじゃねぇ。


現代社会ではもはや化石と化した硬い意志だろうが、どうせなら向けるべきところを変えて欲しい。


その情熱のカケラほどでも学問に向ければ多少は世の中が明るくなるはずなのだ。


頭から滴る血をタオルで縛る事で無理やり止血。

折れていない足で誰よりも早く販売店へと向かわなければと前に踏み出すが、曲がり角から現れた自転車通学者の学生に轢かれて振り出しに戻る。


色々なところから血を流し、タイヤの跡があちこちに残ったまま玄関マットのように倒れているアオイを小学生の群れは滑稽だと笑う。


「まだだ……まだ、終わってねぇだろ」


アスファルトを引っ掻木、死に物狂いで身体を起こす。


「こんな……ところで、へばっていいわけねぇだろ…………俺が、諦めるわけねぇだろうがぁ!」


最後の抵抗、全身全霊全てを賭けた気迫で立ち上がる。


風貌はまさに満身創痍。

二度も吹き飛ばされて骨も折れている、体からは大量の血を失い、立っている事ですらやっとのこと。


どうせならもっと言い訳の立つ理由で怪我をして欲しかったものだが、たかがゲームとはいえ彼にとっては他の何にも変えられない大事なもの。


何年も待った。

ずっとこの時を待ち続けた。


だからここで負けるわけには──


「何……やってんの?」


「…………………………えっ」


幼馴染の千春がいつのまにか目の前に立っていた。


一応ながら幼馴染であり、家も近所だ。

彼女がアオイの家に迎えに来る理由は全くないはずだが、なぜかよく来る。


「学校行くよ」


「ちょっと待って、頭が追いつかない。俺はゲームを買うためにここにいて、なんか運命とやらに邪魔されて思うように行かなかっただけで、あと少しなわけであってそれで……」


「行くよ、学校」


「………………はい」


ミッション失敗。






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