第6話 体育会系怖い
ゴミ袋を引きずるかのように連れて行かれたアオイを放って帰るわけにも行かず、剣道場へと連行、もといい拉致された彼を追って活動中の剣道部へと足を踏み入れた。
「ああっ! 主将今日は……あっ」
剣道部の部員だろう少女が凛の前に駆けてきたが、手元に引きずられているアオイを見るとすぐさま何かを察したかのように身を引いて、
「防具一式用意しましょうか?」
「頼む。コイツを練習相手にするからな」
部員に防具一式を持ってくるように頼み、自身は着替えるために更衣室へと向かう途中、手に持っていたアオイをその辺に放り捨ててから更衣室へと入った。
凛がいなくなると、先程まで彼女と話していた女子部員が防具を取りに歩いているところを捕まえる。
「聞いてもいい? 何でアイツ主将に連れて行かれてんの?」
剣道部なら剣道部の中だけで完結しているべき。
外部と、その辺に転がっている自分の者を勝手に連れて行かれてほしくない。
わざわざアオイを連れて行った訳というものを聞かせて見せろと少々強気にでると、
「主将と試合になるのあの人くらいしかいないんですよ」
そう言われて剣道場に目をやるが、部員数はかなりのもので、並んで素振りしている人間を見るに素人目でも下手ということはない。
わざわざあんなものを引きずって来なくても人数は足りているし、練習試合くらいいくらでもできそうなものだが、
「なぁ、俺帰ってもいい?」
いつのまにか復活していたアオイに千春と宏美が驚きのあまり変な声をあげるが、本人は一切気にせず剣道部員に話を続ける。
「主将が待ってるのでダメです。それに剣道部に引きずり戻した張本人が責任を取らないってどうかと」
「後悔はしてないけど、こうなるやらもっとやりようがあった気がする」
「ああしなかったら戻ってきませんでしたよ。それとはい、これ防具」
会話しながらでもきちんと持ってくるあたり訓練される。
それを嫌々受け取ると、逃げられないと腹を括ったのか、はたまた食らったから痛いからつけているのか、防具で顔が隠れた彼の顔からはわからない。
既に防具をつけて待機している凛のもとへ足を踏み入れたアオイに、彼女は待っていたと剣を構えた。
「始めようか」
「先に言っとくけどこれは練習だからな。試合じゃないから」
そうして両者ともに構え、相手の出方を伺いつつ隙を探っている攻防をよそに、宏美は先程の言葉が引っかかっており、ちょうどよくその場にいた部員を捕まえてきた。
「主将がどうとかあったらしいけど、何かあったんですか?」
ちょうど良く連れて来られた二年の男性部員は「ああそのことか」と、頷き、今もなおボコボコにされているアオイに目をやってから口を開いた。
「試合で色々あった結果、主将が剣道をやめてさ。部員は大慌てで部活も大惨事、見てられない状況になったんだ」
「試合で……イップスとか?」
「似たようなもんだけど。負けたんじゃなくて勝ちすぎた。相手が戦意を喪失して戦ってくれなくなったんだ」
彼女の出る試合は捨て駒として扱われるようになり、避けて通るのが当たり前のようになった。
「それに存在意義を見失った主将が剣道やめて引きこもった。その時にアオイがやってきて主将を家から引きずってきたんだ。今とは真逆だけど」
嫌々引きずられてきた彼の姿を見ているだけに疑わしいが、似たような経験がある彼女達には分からないものでもない。
彼は、彼女達が恋した夏目アオイはそうするだろう。
「『剣を取れ。今のお前なら俺でも勝てる』って啖呵きって、それなのに何度もやられて、それでも必ず立ち上がってきて、彼は諦めなかったんだよ。部員も教員もがもうダメだって思ってた主将に一方的にやられてもまた立ち上がって、最後に一本取った」
「………………やりそう」
「彼は最後まで勝ち逃げするつもりなんだよ。負けを払拭する機会を与えずに、最後まで主将を挑戦者に陥れた」
『素人の俺が一本取られくらいのやつが最強語ってんじゃねえよ』
『お前が本当に最強になりたい時に相手してやる。それまでお前は二番手だ、調子乗るなよ』
アザだらけの身体を引きずって帰って行く彼の姿に希望のような物を見出した。
お前に恐れて折れる人間がいたとしても、俺は必ず屈しない。
一種の信頼のようなものだけをおいて帰って行った彼を凛はしつこく連れてくる。
他の折れた人間と違って最後まで屈しなかった変なヤツを心底気に入ってしまったんだろう。
そしてそんな変人に気に入られた彼も災難というわけだ。
「あー疲れた。ただでさえ怠い学校でこんなことするバカがいるかよ」
大の字になって転がっているアオイは這いつくばりながら防具を外していき、壁にもたれ掛かると大きく息を吐く。
「ゲームしたい。寝たい」
「……そう言えばアオイ。お前のその顔面の傷、刃物だろ。どこで受けたやつなんだ」
「ん? ああ、これか。階段で転んだ」
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