第3話 手作りより市販がいい


夏目アオイが人生で最も美味いと言えるものは『焼きそばパン』だ。


炭水化物に炭水化物を挟んだ最高に頭の悪いメシが美味い。

これは人類の歴史を鑑みても、砂糖100%の綿菓子だの金平糖を作り上げた人類なら理解してくれると絶対に思っている。


むしろそうでなければ先人達は寝起きで作ったのかと思える馬鹿さ加減。


ともあれお昼休みのお弁当時間、購買で狂った焼きそばパンを買って炭水化物in炭水化物を摂取しようと、わずかばかりの抵抗である野菜ジュースを片手に席を立つが、


立った側から椅子で膝をやられて席に戻された。


「どうせアンタは栄養とか絶対に考えてないし、クラスメイトとして倒れられたら私の沽券に関わるから仕方なく用意したこのお弁当を食べなさい」


「そんなに言うならもう作ってくんなよ。一人ぶっ倒れたくらいでお前の評価は揺らがねぇだろうが」


そう言って席を立とうとするが椅子を引けないほどに力を込められて立つことができない。


「これは貧相なアンタに私からの寛大な贈り物よ。受け取りなさい」


「頭のいい料理は食いたくねぇんだ」


学年トップクラスの成績優秀者、北村宏美にレスポンスで勝てるほどアオイの脳みそCPUの性能は高くなかった。



「いいい、嫌だァ! 俺は草食動物じゃない! 肉食獣だ!」


「雑食でしょうが。いいから食べなさい」


購買に走ることを諦め、仕方なく弁当を受け取ったアオイだったが、その中身はと言うと明確に分類分けされているであろう栄養素達。

そして頭の悪いご飯は一切存在していなかった。


「ああもう、往生際が悪い!」


なかなかに箸が進まず、食べると言っても食いたいものだけ拾って口に運ぼうとするアオイにしびれを切らした宏美が箸を奪い取ると、無理やり除け者にしていた食物繊維を口に突っ込む。


「お肉が、お肉が食べたい」


泣きながら今日からヤギになるんだろうとシャキシャキしているアオイを横に、どこか満足そうな宏美は食べきっていない彼の口にまたぶち込んだ。


そうして子供に飯を食わせる母親のような構図が出来上がってしまい、それを笑い物にする生徒の声がチラホラと、


「宏美って優しいよね。あんな放っておけば蒸発するような人も救ってあげるなんて」


もうそう小動物でいいやと思い始めているアオイをよそに、平然と飯を食わせ続ける宏美の御学友らしき人物が近づいてくると、随分と失礼な言葉を吐いた。

今が飯時でなければガン飛ばしているであろうが、草食動物にそんなことはできない。


「中学からの腐れ縁で、私がいないと犯罪とかに手を染めそうだから仕方なく見てあげてるの。ほんとに仕方なく」


「そこ大事なのか」


「さっさと食べる!」


トマト作ったやつ誰だよと、思いながら黙々と口元に運ばれてくる料理を食い続ける。


(……なんで好きなもん食っちゃいけねぇんだろ)


中学の途中から毎日のように手渡される弁当に視線を落として、「俺はいつから保護対象になってしまったんだろうか?」と、空になったそれを閉じた。

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