第4話 きららが認められるとき

 万引きまがいのことをやらかし、それをきららに助けられた克己君は、このことを内緒にしておいてくれと懇願し、立ち去って行った。

 克己君のどこかうすら淋しい背中を見ながら、きららはしばし呆然と立ちすくんでいた。

 しかし、私は確かにひとりのクラスメートを万引きのわなから救い出したのだ。

 そんな誇りにも似た、晴れがましい気持ちがきららの心に芽生えた。


 きららがクラス一の秀才克己君に対して、ひそかな誇りを持ち出してから、自信がついたのだろうか。

 きららの表情は徐々にではあるが、明るくなり、クラスメートに対しコンプレックスを持ちながら委縮するということはなくなっていた。

 それに比較するかのように、クラスメートも次第にきららに対して、異邦人を見るような固い殻を打ち破り、少なくとも以前のように無視といった閉鎖的な態度は示さなくなっていった。


 やっぱり、他人を許すということは大切なことなんだな。

 自分を無視しているクラスメートに、攻撃の刃を向けるのではなく、逆に相手の欠点をも包み込み、罪を許す。

 これが、クラスメートときららを隔てる深い川に架けられた、虹のアーチだったんだ。

 虹は、神と人間との和解のしるしというが、豪雨のあとの虹というのは、見ていて救いを感じる。

 

 きららはこれからも、この気持ちを失わないでおこうと決心した。

 きららは、ちょっぴり誇らしい気分でこの一連の出来事を母親に話した。

 聞き終えた母親は、かすかに微笑みながら

「きららは心配性だねえ。私、今日小さなマッサージ器を買ってきたよ。

 これからは一緒に使おう」

 そう言いながら、Sデパートの包装紙を差し出した。

 包装紙の中には、きららのお気に入りのうさぎのキャラクターがデザインされた、手のひらに入るくらいの小さなマッサージ器が入っていた。

 さっそくスイッチを入れて肩にあてると、凝り固まっていた筋肉がほぐれ、ゆっくりと血流がよくなり、身も心も新しい細胞に包まれていきそうな予感がした。


 END(終結)


 

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☆名門校の転校生きららの怪我の功名 すどう零 @kisamatuma

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