第2話 きららの親孝行とうさぎの弁当箱
クラスメートは、結束して私を射るような視線でにらみつけ、私から挨拶しても、無視を決め込んでいる。
でも仕方のないことだ。何といっても私はよそ者なんだから、私の方から溶け込んでいくよう努力しなきゃ。
きららは、健気にもそう考えていた。
きららの家は、決して裕福ではなかった。
母一人子一人の母子家庭だったが、創真学院に入学したのも、母親がかなり切り詰めたおかげだったのだ。
きららの母親は、小さなたこ焼きとキャベツ焼きの店を経営していた。
夏場はそうでもないが、冬場になると、持病の腰痛が痛み出す。
きららは、そんな母親のために、マッサージ器をプレゼントしようと思っていたが、きららの小遣いの額では、到底高価なマッサージ器など買えはしない。
しかし、きららは無理をしてくれている母親のために、なんとしてでもマッサージ器をプレゼントしたかった。
きららは、学校の帰り道、デパートに立ち寄った。
マッサージ器を買うだけの予算を用意できるはずはなかったが、デパートの店員に頼んでローンにしてもらおうと思いついたのだ。
通常ローンの商品は、二万円以上の高価な商品に限られるということは、きららもわかりきっている。しかし、断われるのを承知の上で、きららは店員にローンの申し出をしてみようと思いついたのだ。
きららの財布の中には、千円札一枚しか入っていない。
しかもその千円すらも、きららが今日の弁当をパン一個に減らし、空腹をガマンして貯めた血のにじむようなかけがえのない金額である。
今頃、母親はあかぎれのひびの入った手で、洗い物をしているに違いない。
寒くなるにつれ、刺すような冷たい風を真向から受け、エプロンのポケットにあかぎれのうずく手を突っ込みながら、売上を計算するーそんな母親の姿が、容易に想像できる。一刻も早く、マッサージ器を母親に渡してやりたい。
そうしたら、あかぎれもすっかり治り、持病の腰痛もよくなる筈である。
そんな願いを込め、きららはエスカレーターに乗った。
もうすぐ、二階の婦人服売場まで到着するだろうと思った頃、エスカレーターの階段の隅に、うさぎのキャラクターデザインの弁当袋が目についた。
二千円もする高価なものだが、こんな可愛らしい弁当袋で食べるおかずは、きっと美味しく感じるに違いない。
しかし、そんなぜいたくなことは、きららの経済事情では許されなかった。弁当袋を拾い上げ、中をのぞいてみると、入っていたのは弁当箱ではなく、なんと商品券三十枚が入っていた。
幸運のチャンスとは、まさにこのことである。ひょっとして、神様がきららの願いを知っていて、天から用意してくれてたのだろうか。
おとぎ話じゃあるまいし、まさかそんなことがあり得ない。
デパートの届けなかったら、遺失物拾得ーいわゆるネコババになる。
でもきららは、母の顔を思い浮かべると、この商品券を自分のものにしたくなった。きららはそっと学生カバンに、商品券の入った弁当箱を入れ、チェックをしめた。
翌日、朝のホームルームのとき、担任が教壇に立ち、やや興奮気味に発言した。
「昨日、Sデパートから通報があったのだが、本校生徒が商品を万引きし、その商品のなかに商品券を入れて、エスカレーターの隅に置いている現場を防犯カメラが撮影していたらしい」
きららはハッとした。まさに昨日拾った弁当袋のことである。
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