☆名門校の転校生きららの怪我の功名

すどう零

第1話 とんでもない進学校に転校したきらら

「さあ、皆さん。今日は転校生を紹介します。水田きららさんといいます。

 いろいろ、教えてあげて下さいね」

 季節の風を感じ始めたある日の朝、担任に紹介された少女は、もじもじしながら、少しうつむき加減にクラスメートにお辞儀をした。少し太り気味の赤いほっぺの少女は、一見健康そうにみえたが、実は心臓に疾患を抱えていた。

 クラスメートは違和感をもって、彼女を見つめた。


 この私立創真学院は、世間ではいわゆる名門私立校で、塾の宣伝材料にまでなっているほどの有名校であったが、その実態は規則と偏差値教育として、生徒たちをがんじがらめに縛りつけておく管理教育の見本のような高校だった。

 クラスメートは、息抜きを求めてはいたが、パーマも染色も色つきリップも禁止されていたので、かえって反発する生徒もいたくらいである。

 勉強一筋で窒息寸前のクラスメートは、いつしか他人との偏差値教育に疲れ果て、バーチャルゲームのように、別の競争相手ともいえるターゲットを探していた。

 自分たちよりも劣ってるくせに、一人前に自由な生活を与えられている、風に舞うたんぽぽの種子のような人物。

 彼らはそういう人物が、うらやましくもあり、妬ましくもあった。

 もし、そんな毛色の変わった人物が、このクラスに入ってきたら、攻撃のターゲットにしてやろう。いつしか、そんな陰湿なムードが流れていたが、そのムードに圧倒され、学校をサボる生徒も現れだしてきた。

 優等生の仮面を被った弱い者いじめの集団。

 自分がいつ、攻撃のターゲットにされるかわからないという妙な緊張感、まるでいつ後ろから背中をグサリと刺されるかわからない、人情も友情のかけらもないアウトローのような集団を避けるように、学校をサボりだす生徒も徐々に増え始めてきた。


 今日、転校してきたきららという子は、いったいどんな子なのだろうか?

 あの子は私たちよりも、偏差値は上だろうか? いや、肥満体にもなりきれていないあのぽっちゃり体形は、頭の回転は鈍そうだ。トロい、愚鈍、そんな形容がぴったり当てはまりそうだ。

 どう見ても、スポーツ万能にはほど遠い。

 しかし、ああいったタイプの子に限って、語学が得意だったり、音楽がプロ級だったりするケースもあるが、そういった取り柄のある子は、認めることも可能である。

 きららがどういった特技をもっているのか調べるため、ひとまずクラスメートは無視という洗礼を浴びせることにした。


 きららは、りんごのように赤いほっぺたなので、一見健康そのものにみえるが、生まれつき心臓に疾患をもっていた。

 将来的に身体を弱いというハンディキャップを少しでも軽くする為には、名門高校を卒業することがいちばんの近道だと思い、この創真学院に編入したのである。

 しかし、この異様ともいうべき雰囲気は、きららが今まで味わったことのない、黒い槍のような緊張感と冷たさがビンビンと伝わってくるようだ。

 

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