袋とじ・多目的・帝国

「ごはんーっ」


 隆司りゅうじくんはすっかり記憶の中の頃のように無邪気に戻ってしまっている。どうやら一時的に自分の成長を促すことができるらしい。黄昏書店を走り回るその姿は懐かしい光景だ。


「さて、とりあえずご飯は食べるとして。お疲れ様だね。それにおかえりなさいか」


 つとむさんはちっとも変わらない様子で驚いた様子もなくたすくたちを迎え入れてくれた。


「結局のところなんでこんな騒ぎになったのよ。隆司くんがさらわれたり佑が消えたり」


 楓が当然のように一緒にテーブルを囲んでいる。夏希なつき喜美子きみこさんは仕事があるからと帰っていった。永遠とわもだ。だからいまここにいるのは勤さんに隆司くん楓と氷姫ひめだ。


「最終兵器の回収。それが彼の目的だった。まあ、回収に成功はしてもそのそもの目論見は失敗したようだけど」

「最終兵器?それって佑のことじゃあ……ってもしかして隆司くんのことだったの?確かになんか変な感じしたんだよなぁ。佑はすごく頼りになるって感じじゃなかったし。ドラゴンの隆司くんなら納得」


 たしかに最終兵器と呼ばれた時にそんな話は聞いたことなかったからおかしいとは思っていたけどそんな意味だったとは。袋とじを開けた気分だ。


「じゃあ大臣は最初から知ってたってこと?それなら最初から言ってくれれば人違いで連れて行かなくてもすんだのに」

「まあ、隆司のことは知っていてもまさか子どもの姿をしているなんて思ってなかったんだと思うよ。実際その影響が大きすぎる力を抑え込むために子どもの頃に退行しているわけだし。だから……」


 そこで勉さんはちらりと佑のほうに視線を送る。


「同等の力を模造品とはいえ手に入れてしまった。気をつけたほうがいいのは間違いないね」


 勉さんが物騒なことを言っている。世界から観測されたら排除対象になりかねない力の大きさだ。というかしばらく反動で動けなかったのでそうでなくても使いたくないのが本音だ。


「じゃあ、佑が消えたのは?」

「ただのとばっちりだよ。その場にたまたまいたから始末されただけだろう。それがたまたま再利用されたからこうやって帰ってこれたものの、ほんと運はいいよね。最初から」


 そうだろうか。運がよかったら物語といいうものに関わることもなかった気がするし、多目的な用途でここに入り浸ることもなかったはずだ。そうしたらなにも知らずに生きていけた未来があったはずだ。九重佑として普通に生きていくだけの。


「ここを見つけられただけでも運がよかったですよ」


 仮初めの人生よりも真実を見つけられる希望がある今の人生のほうが生きている実感がある。


「嘘みたいな帝国や氷漬けの姫なんていうのも見れましたしね」

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