やわらか・ポケット・リーダー

「もっとやわらか頭になった方がいいよ。物語はもっと自由で無限だ。そこにどんな面白さや奥深さを残すかもそれぞれの物語の自由だろ」


 たとえつまらなくてもクソみたいな話でも。そこに確かに生きている物語もあるのだ。それはたすく自身が一番実感している。


 弾丸と名乗る未来が自分の物語にあることを知り。それが決して幸福な未来じゃないことも。もう知っている。それでも、その物語を否定することは自分を否定することにつながる以上、それはしたくない。たとえ、どんな未来だろうとそれを受け入れなければならないし、それにだ……。


「物語の結末なんて自分で決めてもいいだろう?俺は作者でも読者でもない。登場人物なんだ。それなら物語の結末くらい決められてもいいだろ。そして、いまこの瞬間だって物語だ」


 佑は自分でも驚くくらいリラックスしているのがわかった。剣の振り方は体が覚えている。その記憶通りに体に身を任せるだけでいい。頭はからっぽだ。


 ポケットに手を突っ込むくらい自然な動きで振るったその剣はドラゴンの動きをしっかりと捉えていた。まとっていたオーラのようなものの上からスパッと斬り裂いた感覚が手に残る。同時に目の前がとそがれ色に染まっていく。ドラゴンの体の中から物語の力が溢れていくのだ。


「最初からリーダーであるお前に従っていれば違った結末もあったのかもな。まあ、でも自らが決めた選択だ。これもまた物語の結末のひとつだというのであればそうなのだろうな」


 リーダーという言葉が弾丸を指すのだと気がついたときにはもうドラゴンの表情もわからなくなるほどに崩れていた。それは一体どういう意味なのか、問いただす時間もなさそうだ。


「さ。帰ろう」


 ポカンとしている氷姫ひめに向かってそう微笑んだつもりだった。でも体中が痛くてその場に崩れ落ちた。ドラゴンの力の反動。すぐに手放したところで許してはくれなったみたいだ。そのまま佑の意識は遠のいていった。

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