ゴーストライター・教科書・人魚

 確かな手応えに剣を強く握りしめる。キラキラした光が宙に舞って消えていく。ドラゴンを構成する物語の力が消えていったのだろう。このまま斬りつけ続ければいつかは勝てる。そう確信する。


「ゴーストライターが書いたような夢物語の力にこうも押されるとは。これでは竜の王と崇められた自分が情けなくなってくる。たとえここで自由に力を振るえないにしてもだ」


 その言葉とともにみるみるうちに発光しながらドラゴンの体が小さくなっていく。隆司りゅうじくんもその体の変化については行けず、その爪の間をすり抜けるようにドラゴンがたすくの前に移動していく。


 発光が収まると、その姿は人の形になっていた。スーツを着た冴えないおじさんにしか見えないその姿からは想像もできないほどの威圧感を受ける。


「人魚姫でもあるまい。驚きすぎて声も出ないのか?ドラゴンだろうと人だろうと所詮は輪郭を形成しているだけにすぎぬ。大事なのはその中身に秘められた力の大きさだろう?」


 その瞬間にもドラゴンの拳が佑の腹部にめり込んでいた。純粋な打撃。教科書通りのその正拳突きは体の内部を破壊するかのように全身に振動を運ぶ。あまりの急な出来事に佑はその場に膝から崩れ落ちた。

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