劇場・4才の・ママチャリ

 ひとりでワクワクしているのは4才の頃にはじめてひとりで家の外に出たときを思い出す。勝手に外の世界に期待してなにかが起こるかもしれないとじっとしていられない気持ち。そんな淡い思いは結局、期待どおりになることなくママチャリでさっそうと現れた母親に咎められて終わるのだ。


 でも今はそういうわけにはいかない。期待どおりに鱗を斬り裂いてくれなくては困る。


 そうしてその期待を込めて剣を振り下ろすのだ。全力で。でも力を込めすぎず。スッと刃が通るイメージ。つとむさんも物語の力にはイメージが大切だと言っていた。それが自分の力であるかのように錯覚するくらい結果をイメージする。その途中経過である動きにあまり意味はない。大切なのは結果だけ。


 劇場での俳優の動きがそうであるように。周りを、自分を説得できるだけの動きがあればその動きに結果はついてくるのだ。


 剣を振り下ろしても金属同士がぶつかる音はしなかった。手応えはほとんどない。それこそ空振りしたのかと思ったくらいだ。それでも確信があった。


 ドラゴンの叫び声である咆哮が聞こえたのはすぐそのあとだった。

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