らくがき・の森・地球侵略

「ペットだなんてとんでもない。優秀な傭兵だよ。依頼も無事に達成してくれた。本当に優秀な傭兵だ」


 にやりと笑ったのだろうけれど、ライオンの顔なんてよくわからない。それがきぐるみなのだから余計だ。きぐるみなのに表情が動くこと自体がおかしいのだけれど。ここはそういう世界なのだと納得するしかない。まるでらくがきを描いたような不思議な世界だとしてもだ。


「傭兵だっていうならそれこそきちんと報酬をもらいたいんだがね」

「そう言われるとそうだな。なんだっけか。九重佑ここのえたすくの居場所だったか。それならここだ。ここ」


 こちらがそれをわかっているのを承知で意地悪にそういうライオンに永遠さんがいらつくのがわかった。


「そいつじゃない。俺たちの知る九重佑だ」

「それは定義が難しいね。君たちとの記憶を共有する九重佑はこの世界から立ち去ってしまっている。強制送還に近いものだ。だからこそここに別の九重佑がいる。彼の物語自体が強い力を持っているのだろう。こちらに現れやすいみたいだ。それこそ今回みたいに地球侵略を企むくらい」


 話し始めた内容がすっと頭に入ってこない。氷姫ひめはそれは自分が拒否したいからだと気づいている。


「どういうことだよ。約束が違うじゃないか」

「いいや、違わないね。彼がどのような状態でどこにいるかは難しいと言った。そして答えは今目の前にある。彼のこちらでの記憶は古い木の年輪みたいなものだ。その年輪のどこが表面化しているかによって異なる。違う層になったら彼自身、こちらに来るタイミングによって別の人格になる」

「よくわからないな。年輪だった深くにある記憶もありそうなものだ」

「それが不思議なものでね。そうである場合とそうでない場合がある。今回の彼の場合は記憶の共有はないみたいだ。彼の森はもしかしたら分岐が多いのかもしれない」

「分岐?」


 難しい話にその場の全員が難しい顔をしていた。

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