いちおくまんえん・生・0点

「分岐。まあスピンオフ、二次創作、多種多様な物語の派生だろう。それだけ物語が長いのかもしれない。いろいろな理由があるだろうけれど、森が深いのは間違いない」


 たすくさんの物語がそれだけ人気だということだろうか。そんなの目にしたことないし知りもしない。そもそも九重佑という登場人物がいる物語を知らないのだ。生で芸能人を見ているような感覚に陥る人もいるのだろうが、知らない以上、そこにいる普通の人にしか思えない。だから分岐が多いと言われても実感がわかない。


 そう考えてみるとここにいる全員の物語を氷姫ひめは知らない。それくらい物語の数は星の数ほど多く知っている物語なんてほんの一部でしかないのかもしれない。


「佑おにいちゃんはいちおくまんえんってこと?」


 ドラゴンでなくなった隆司りゅうじくんはなぜだかまた幼くなってしまったみたいで、よくわからない金額を口にする。


「まあ、そうかもしれない。それだけの価値があるといえばある。未知数だといえばそうでもある。でもそれは誰だってそうだろう」


 なぜだかライオンには伝わったのか曖昧ながらも応えている。


「その答えは0点だね」


 でも隆司くんの返答は厳しいものだった。せっかく相手をしてくれているのだからもっと甘くてもいいのにと思ってしまった。


「だって、佑おにいちゃんの物語はひとつしかないんだから」


 そう力強く言い放った言葉には幼さはなかった。

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