押しボタン式・の卵・時空を超えた

 押しボタン式のやる気スイッチでもあればいいのにと氷姫ひめは本気で思った。眼の前のたすくさんとしか思えない人を目の前にして、どうしたって戦う気なんておきない。


「あちらこちらで盛り上がっているのだけれど。キミは動かないんだね。まあ、動いたらすぐに終わっちゃうからそれでもいいんだけど。それはそれで退屈だよ」


 問いかけいるようだけれどもそこに込められた殺気はこれまでにないものだ。拳銃に手をかけていることからこちらが少しでも戦う素振りをしたら即座に弾丸がこちらに放たれるのだろう。


「物語としてのあたなはどういう人だったの」


 だから話をしようと思った。少しでも佑さんの手がかりがほしいから。佑さんと違うなら違うで彼が佑さんと違う人だと認識できればそれはそれでいい。


「はあ。なんでそんなこと話さなきゃいけないのさ。まあ。でもひどい世界だったよ。強くなきゃ生きていけないくらいにはしんどかったよ。だからここは天国みたいなものだ。にわとりの卵も美味しいしね。あそこからここにこれて本当に良かったっと思っているんだ」


 めんどくさそうにしていた割には話し始めたら止まらない様子の弾丸に氷姫は驚いていた。


「平和だった頃が懐かしいし、できれば元の状態の元の場所に帰りたいことろだけれど。それも出来ないって言うしね。しょうがないからここも居心地がいいからここにいることにしたんだ。それなのに、ここから出ちゃいけないと分けのわらないルールがあって。それを破っちゃいけないなんて言い始めるから」


 弾丸の言葉に少し気になるところがあるような気がしたが氷姫自身どこを気になったのかいまいちピンとこない。


「時空を超えて過去に戻れたらどれだけ幸せなことか。そしたらあの事件も防げるし、みんなもきっと生きてられる。ああ。そう思えば思うほど未練は残るけれど。まあそれもどうでもいいんだ。そろそろ準備はできたろ。始めようじゃないか」


 弾丸は佑さんじゃない。それは氷姫の中で確信へと変わっていた。佑さんはいつだってそこにいる誰かのことを大切にしていた。自分のことよりもだ。でも弾丸はここで無い人のことばかり語る。そしてそれを自分の都合の良いようにしようとしている。佑さんはきっとそんなこと望んでも口にはしない。


「わかりました。始めましょう」


 弾丸への対策は必死に考えてきた。それがうまくはまるかは氷姫の冷静さにかかっていた。

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