プリンス・幹事・地獄絵図

「お殿様。プリンス。魔王に勇者。ゲームの世界には色んな人がいるし、色んなアイテムがある。それらに特殊な力だってな。それは全部この世界の人間が付与した設定ってやつだ。もちろん俺だったそうだ。わりとこっちとしては大事なことなんだがな。そちらさんにしてみりゃ、忘れがちってやつだ。あまりにも同じようにしか見えないっていうのもあるが。決定的なのは世界に甘えすぎってところだ」


 私達が世界に甘えている?そんなことがあるのだろうか。考えもしなかった話にかえでは混乱する。


「物語の力を使っても世界が修復してくれる。いや、そもそもだ。この世界は恩恵を与えてくれているものが多すぎる。俺がいた世界ではこんなに情報を与えてはくれなかった。光、音、感覚、感情。そのすべてがここよりかは数段下がる。もっと言えば世界の解像度がここのより低いんだ」


 世界の解像度。そんなものがあるのか。想像もできない。でも侍の言いたいことちょっとだけわかる気がした。


 物語の世界というのは作者が作った設定を基準に作られる。練り込まれれば練り込まれるほどそれは解像度を増し、そこにいるはずの人たちの感覚も研ぎ澄まされるということなのだろう。


「だからこの世界に訪れたときは感動したさ。これまでの世界が地獄絵図にしか思えなくなった。それはどいつもこいつもおんなじだ。なのに、ここにうずっと閉じ込められているなんて意味がわからない。俺たちはもっといろんなものを見て、聞いて、感じたいんだよ。だから俺たちが幹事になってここにいるやつらを解放させてやろうってだけだ。その邪魔をしてくれるな」


 その気持ちは理解できる。でもだからといって世界を壊されるわけにはいかないのだ。


「そんなのそっちの勝手じゃない。ここは私達の世界だ。暴れるならあんたたちの世界に戻ってもらうしかないんだ」


 楓はそうはっきりといい切った。

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