ゾンビ・の缶詰・でございます!

「そんなのありかっ」


 侍はそんな文句を言いながらもきちんとその包丁を紙一重で避ける。しかしそれを見逃す口裂け女モードのかえでではない。もう一本の包丁を片手に侍に襲いかかる。


 縦に横に、包丁を思いっきり振り続ける。


「おっと、おっとと」


 それを侍は時に刀で受け流し、時に紙一重に避けながら。髪の毛を数本、服の切れ端を空中へ散らしながらも致命傷は受けない。そこには熟練の動きが感じられる。それでも攻撃の手を止めることをしない。疲れ知らずのその動きにさすがの侍も焦り始める。


「お嬢ちゃんゾンビにでもなっちまったのかよ。嘘みたいな体力してるなっ」


 劣勢だった侍が必死に振るった刀が楓の包丁を弾く。


「ちっ!しつこい!」


 楓としてもさっさと終わらせたい感情が心のそこから湧いてくる。意識は朦朧としたままが故に本能が強く表面に出てしまっている。


「はっ?」


 だからだろう。ありえない楓の動きに侍は完全に居をつかれたようだ。


 包丁が確かに刀を持っていた腕を切り裂いた。切り落とすほどの攻撃ではない。血もでないのは物語だからだろう。腕の一部が霧状に消えていってすぐさま修復される。


「こいつはまいったでございますねっ。お嬢ちゃんの攻撃をこんなに簡単に食らっちまうとは。やられたぜ」


 軽口を叩いているが先程までに比べて体から発せられる闘気とでもいうのか。迫力が明らかに落ち着いている。


 それを確認するのと同時に楓は口元がもとに戻っていくのが分かった。完全に時間切れだ。これ以上は自らの身体が持たないと判断されてしまったようだ。


「ここにはさんまの缶詰で体が回復するようなアイテムがないのが残念なところだ。まったく不便な世界だぜ」


 侍が腕を眺めながらよくわからないことを言っている。


「アイテムってそんなゲームみたいな」

「はぁ。まだこの世界がなんたるかわかってないみたいだな。俺はそのゲームの世界からやってきてるんだよ」

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