極太・モーニング・泥酔

 逃げ遅れたのは氷姫ひめだけではない。かえでさんも夏希なつきさんも動けないままだ。


 とっさに腕で顔を隠すけれどそれくらいでどうにかなるものではないのは分かっている。それでも迫りくる命の危険にそうせざるを得ない。


 しかしいつまでたっても想像していた苦痛はやってこない。いつまでもやってこないのに流石に不安を覚えて目を開けた。


「い、いまのうちに逃げて」


 極太の炎のブレスを喜美子きみこさんが止めている。どうやっているのかはわからないけれど、目ない壁が広がっているみたいだ。


「は、はい」


 素直に従ったのは氷姫と楓さんだけだ。夏希さんは喜美子さんのそばを離れてはいない。


「わたしたちのことは構わないから早く行ってっ」


 夏希さんと喜美子さんの繋がりは強いものらしいこのまま離れることもできないのかもしれない。


「永遠さんは?」


 逃げながら楓さんが騒いでいる。確かに永遠さんがいないとどうにかできる状況じゃない。いや、いてもどうにかできる状況じゃない気がする。


「はぁ。とりあえずは防ぐか。さすが挑戦してくるだけのことはある」


 ドラゴンの声だろうか。空気が震えている。後ろを振り返ればドラゴンのブレスは止まっており、肩で息をしている喜美子さんを夏希さんが抱えながら走っている。


「モーニングにしては随分と熱い火力だな。もうちょっと弱火でもいいんだぜ」


 どこからともなく現れて軽く飛び上がった永遠さんがドラゴンの顔を勢いよく拳でぶん殴る。


「はっ。かったいなぁ。流石にこれじゃあびくともしないってか」


 呆れながら地面に着する永遠さんを見て呆れていまうのはこっちだと氷姫は思う。そんな氷姫をちらっと永遠さんが視線を送ってくる。すぐにその意図は理解できた。あのドラゴンのウロコを切り裂けるくらいの剣を作れとのことなのだろう。


 泥酔してしまったようによろめきながら水しぶきを上げるドラゴンは怒っているようにも見えるし楽しんでいるようにも見える。


 集中しなくてはならない。一度だけでもいい。一振りで砕けてしまっても、あの鱗を一刀両断できるだけの剣を作らなくてはいけない。


「ちょっとなんで止まるのよ氷姫ちゃん!」


 楓さんが驚く。


「逃げてばかりじゃたすくさんが帰ってこないんです」


 だったらやるしかないのだ。

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