名探偵・全盛期・ヒーロー

「全盛期だったらひとりでも勝てたでごわすが……どうやらきびしそうでごわすね」


 たった一度のぶつかりでお相撲さんは永遠とわさんの実力が図れてしまったのか、そんなことを言い始める。それが時間稼ぎであることも明らかだし、それを分からない永遠さんでもない。しかし、永遠さんは動こうとはせず。ただ、お相撲さんがゆっくりと近づいてきているのを待っている。


「いきなり言い訳かよ。物語なんだったら、全盛期でもなんでも取り戻せそうなものだけれどな」

「それが簡単にできないからこうやって、憤っているでごわすに!」


 いや、口は止まることがなく挑発し続けている。


「ここは牢獄でごわす。勝手に呼び出されて監視され、仕事を与えられ、その対価としてこの世界に存在することを許されている。そんな物語たちに意味があるのでごわすか!」

「それがここから出る理由か?それでこの街を作り上げているものを壊そうとしているのか?」


 永遠さんはどこか怒っている様にも思える声を出す。女の子の姿でもその迫力のある声はもとの声と重なる。お相撲さんはこみ上げる感情を抑えきれないと言わんばかりに走り始める。その大きな質量は地面を揺らしている気すらする。


「そうでごわす!ここにいるみんなこのテーマパークに搾取されているだけの物語。それでいいはずがないでごわす!」

「それでヒーローにでもなったつもりなのかよ」

「そっちこそ全部わかったようなことを言って、名探偵にでもなったつもりでごわすか!」


 永遠さんは避ける気配を見せるどころか、地面にどっしりと構えを取るとお相撲さんを受け止める体勢に入る。華奢な体でそんなこと無理だ。


「物語の意味を考えるのはいつだって受け手だ。物語自身じゃないし作者でもないさ」

「うるさい!」


 勢いそのままに感情そのままにすべてをぶつけるかのように永遠さんにお相撲さんがぶつかった。

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