時間差・おるすばん・ママの味

「おるすばんしてるから」


 隆司りゅうじくんはおりがみの本をご満悦そうに抱えたと思ったら急にそんなことを言い始めた。


「もしかしてつとむさんにプレゼントがしたいのか?」


 たすくの問いかけに隆司りゅうじくんはこくりと首を縦に振る。


「そっか。じゃあおりがみ買って帰らないとな。氷姫ひめも一緒に作るだろう?」

「うんっ」


 氷姫が元気よく答える。あまりに元気が良すぎて、周りの視線が少し気になるほどだ。


 ふと、氷姫が抱えている本が目に入って気になってしまった。『ママの味』。そう書かれたタイトルを見て心がズキッと傷んだ気がした。


「料理。興味あるのか?」


 今度は氷姫がこくりとうなずいた。そうなのか。懐かしさがあるのか、それとも単にあこがれなのか。それが佑には複雑過ぎてどうフォローしていいかわからなかったが、やりたいと本人が言うのならばそれを止める必要はないと心底思う。


「そっか。勉さん帰ってくる前に料理して用意して待っててみようか」


 そう提案したらふたりとも嬉しそうにする。


「料理におりがみに、とりあえず買い物に行かないとな」

「おっ。もしかして佑か?」


 そう決まりかけた時、突然声を掛けられた。そしてその声は久しぶりに感じる。


永遠とわじゃないか。久しぶりだな」

「そんなに久しぶりだっけか。まあいいや。編集長がいなくなったから大変なんだ。ここにも、仕事に使う資料をね……その子が編集長のか?」


 そうだ。編集長が自らを捧げて目覚めさした主人とも言える語り部。そう言えば氷姫が目覚めてから永遠にあいさつに行っていないことに気づきあやまる。


「なにがだよ。それが編集長ののぞみだろ。なんなら佑が面倒みてくれてありがたいと思っているだ。とてもじゃないが、俺には無理だからな」


 それは仕事が忙しいからなのか、単にそういう性分じゃないからなのか判断がつかない。


「編集長?」


 時間差で氷姫が呟いた。その言葉に永遠と顔を見合わせて気まずい雰囲気が流れ出す。


「隆司くん。氷姫。永遠も一緒に料理とおりがみするでいいか?」


 そう新しい提案にふたりは勢いよくうなずいた。

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