まっしぐら・ヘソクリ・ついでに

 黄昏書店に入ると隆司りゅうじくんがまっしぐらにおりがみをお気に入りの箱から取り出すと。借りてきた本とにらめっことを始めた。

 しばらくは大人しくしてそうなので、氷姫ひめを連れて台所へ向かう。


 材料は帰る途中で返ってきた。作るのは永遠とわのリクエストであるオムライスだ。この前、つとむさんが作ってくれたのが忘れられなかったらしい。


『おんなじ味にはできないよ?』


 そう心配そうにたすくを見上げてくる氷姫に優しく微笑む返すだけだ。無理におんなじ味にする必要なんてないし。氷姫が作りたいように作ればいいと思ったからだ。そもそも永遠が食べたいといっただけで。永遠に作ってやるつもりなんてなかったのだから気にする必要はない。


 やんわりとそのことを告げると氷姫は安心したように見えた。そして、今はやる気に満ち溢れた目をしている。


「おい。ヘソクリ探そうぜ。あの人なら結構なもの隠してそうじゃないか。金目のものとかじゃなくて、もっと大掛かりな物語の本とか。危ない物語とか」


 相変わらずの永遠のことは無視して氷姫の動きをただただ見守る。


「おい。あからさまに無視すんなって。ただの冗談じゃないか」


 冗談に聞こえなかったのだから仕方ない。こいつなら本当にやりかねないと思っている。


「なー。佑くん。引き続き無視ですかー。本当になにかないかさがしちゃいますよー。ついでに本物のヘソクリも」


 そう言ってガサゴソと、本屋の中をあさり始めた。商品の隙間にそんなものがあるはずもないのだけれど。ハナからそんなものは期待していなくて。暇だから時間を潰そうとしているだけなのかもしれないが。


「ねえ。これでいいのかな」


 氷姫に話しかけれられて散漫していた意識が料理へと向かう。


「ああ。大丈夫そうだね」


 なかなかの手際の良さに出来上がるものが期待できそうだった。

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