人生のピーク・ラブソング・あっちこっち

「急に呼び出してしまってすまなかったね」


 デスクの向こうにいる永遠とわに編集長と呼ばれた人物は開口一番そう話しかけてきた。先程まであっちこっちに話しかけている編集長は忙しそうに見える。


 ビルは思っていたよりも小さくて地上4階建て。ここはその2階だ。会社の名前も聞いたことがなかったのでもしかしたら小さい会社なのかもしれないが、ここで口にすることではない。

 隣の永遠をちらりと横目で確認するがのんきにあくびなんかしていて、自分からしゃべるつもりはなさそうだ。


「永遠から話を聞いてね。君に興味が湧いたんだ。特にその能力。永遠に似ているが本質的には全く別物。変身やなりきりとは違う」


 永遠の前では色々な力を使ってしまったし、そもそも永遠の能力の一部をコピーまでしているのだから言い逃れはできない。それでも、どんな能力かは想像するしかないはずだ。それなのに、編集長は何かを確信しているみたいだった。


「そうですけど。それ以上を初対面の方に言うと思っているんですか」


 できれば能力の全貌は知られたくない。正しくは語り部の力でないことはもちろんのことだ。


「そう警戒しないでくれ。ひとつお願いがあるだけなんだ。永遠ひとりではどうにもならなそうなんでな。君がいればなんとかなりそうなんだよ」

「お願いですか。ラブソングをデュオで歌えとか言われなければお受けはしますけど」


 アイドル姿の永遠を思い出してそう冗談で返してみる。その中にはたすくの能力に気がついているか試す意味もある。能力をコピーすればそいうことだって出来るのだ。やりたくないけど。


「それはそれで見てみたいが双子デュエットというのはミステリアス過ぎるかな。またの機会にお願いするよ」


 佑の能力に察しはついているみたいで、油断してはならないと、本能が告げている。


「それで何をすればいいんですか。黄昏時関連ってことでいいんですよね」


 その言葉に編集長はにやりと笑う。それがよく似合っていて、ちょっとだけ絵になるなと思う。


「人生のピークだった氷漬けのお姫様を救って欲しいんだ」


 そう言った編集長はちょっとだけさみしげに見えた。

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