犬・ざうるす・とっておきの

「あっ。犬。犬だよー」


 食事に向かうまでの道のりで、家の門から此方に向かって顔を突き出してくぅーんと鳴いている犬を見つけて隆司りゅうじくんが走り始める。

 危なくないかと一瞬ヒヤッとしたけれど、大人しく撫でられている犬をみてすぐさま、すっと胸をなでおろす。


「おや。ここってもしかして……」


 つとむさんがなにかに気がついたように家自体を見上げている。2階建ての普通の住宅にしか見えないのだけれど。知り合いでも住んでいるのだろうか。


「ざうるすー。ご飯だぞー」


 聞き覚えがあるような、そうでもないような声が聞こえてきてその家の玄関が開いた。そこから出てきたのはやっぱり見覚えがあるようで、そうでもない見た目の男性で。


「げっ。お前らなんで人の家の前に集合してるんだよ」


 そのしゃべり方をする知り合いに覚えは少なくて。


「もしかして永遠とわか?」

「もしかしてってなんだよ。俺は俺だろうよ」


 やっぱり永遠みたいで安心する。


「ざうるすってもしかしてその犬の名前?」

「そうだよ。かっこいいだろ」


 自慢げにそ言う永遠に視線が犬……ざうするへ移動する、ゴールデンレトリバーだろうか。大きい体で優しい目はざうするとは程遠い。永遠のネーミングセンスを疑ってしまう。


「それよりなんでこんなところにいるんだよ。ここが俺の家だと知ってたわけじゃないだろう?」

「ああ。もちろんだ。とっておきの餃子がそこで食べられるらしいからそこに行くところだよ。なんなら永遠も行くか?」

「いや止めておく。これから仕事なんだ。あっでも待てよ。たすく。お前も来いよ。編集長が開会いたがってるんだ。もちろん来るよな。こっちきてもとっておきの食べさせてやるよ」


 思わず勉さんを見たら隆司くんとふたりでいく算段に切り替わっていて。佑はひとり肩を落とした。

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