寝言でハッキリ・ロボ・いきもの

「おじさん止めてください!近寄らないで!」


 突然の声が新幹線の中に響き渡る。空いていたからこちらを気にする人も見られなかったけれど。気にする人がいたら駅員さんに報告して大きな騒ぎになってしまうところだ。寝言でハッキリと言うものだから驚きはしたけれど、すぐにスヤスヤと寝息を立てているのだから恐れ入る。


 彼女は真壁楓まかべかえでと名乗った。わざわざ新幹線を使って黄昏書店までやってきたと言ったときはつとむさんも驚いていた。そんなところまでここの噂が届いているんですねと嬉しそうにしていたのだ。


『ネットで調べたら出てきましたよ?』


 そう勉さんの表情を崩すように放った言葉が楓の性格を表しているようだった。そのことに疑問をいだいたのか勉さんはそのまま考え込んでしまった。黄昏書店の事自体は大臣と呼ばれる人に聞いたらしいのだがその黄昏書店の場所はネットで調べたらしい。


 大臣に届いていたんだから黄昏書店の噂が届いていたということでいいと思うのだが、ネットで出てきたという方が問題らしくあとはよろしくね。と言って書庫へ引きこもってしまったのだ。


 経費としてお金はある程度もらっている。自由に使えるわけではないのだkけれど依頼に必要なものや、宿泊や食事に関するものは全部請求すれば軽くもらえる。いけないことをしたらすぐにバレるのもわかっていたからしない。そもそもお金を使う機会もない。


 物語か。自分の手をまじまじと見直す。おそらくいきものであることは間違いない。血も通っているし病院にいっても問題ないと勉さんはいっていた。


 でも。


 自分は一体なんなのだろうかという思考は止まることを知らない。時間ができるばすぐにその思考のループに陥る。


 だから忙しくしていたいのだろうか。考える暇をなくしたいがために。


 自分がよくできたロボットのように思えてくるのだ。精巧に人間を再現したロボット。物語の力というオーバーテクノロジーを使ったなにか。


 起きてなんでもいいから話しかけてほしい。そう思いながら楓が寝ているのを眺めることしかできなかった。

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