世代・プチ・絶対

「絶対許さないんだから!」


 初めて乗る新幹線のシートの心地よさにうとうとし始めたところに大声を出されてビクッっとなる。一体どんな夢を見ているのだろうか。


 ハッキリとした寝言が癖なのだろうか。かえでは難しい顔をしながらまだぶつぶつと聞き取れないなにかをしゃべっている。機嫌が悪そうに見えるので起こしたりはしない。


 楓の依頼内容を思い出しながらじっと次々と変わり続ける外の景色を眺める。


 口裂け女。一時期世間を騒がせたその都市伝説は世間に広まり続けていた。それこそ、その馬鹿げたそれこそ伝説としか呼ばれないようなそのモノが現実に顕現するには十分すぎる時間が過ぎていた。つとむさんいわくそういうことらしい。


「口裂け女ねぇ」


 口に出せば出すほど到底信じられない。これだけ物語の力と関わったのにも関わらずだ。これまでは語り部が相手だった。でも今度は物語自身が相手だからか。物語自身。笑ってしまいそうになる。自身がそうなのに信じられないとは甚だしい。受け入れるべきだ。


 世代を越えた都市伝説の強さは半端ないと勉さんは言っていた。ただ、いつもどおりに戦えば大丈夫だとも。相手は都市伝説の内容を忠実に再現しようとするだけ。だから行動も単純。


 最初は驚かすだけだったそれが人を襲うようになったのは物語の誇張。伝説の続き。これは地域差が大きいらしい。要はその地域の都市伝説の伝わり方次第だというのだ。プチ口裂け女になったり、人殺しまでする口裂け女になったり。


 楓の依頼はもちろん後者の口裂け女だ。


『友達の弟が襲われて。それ以来友達もふさぎ込んじゃって。どうにかして犯人を捕まえようとしていたら、大臣って名乗る人に教えてもらったんです。あの手の化け物を扱う専門の本屋さんが存在するって聞いて調べたら出てきて。やってきちゃいました!』


 元気にそう説明する楓の表情は決意に満ちていて、真っ直ぐな目をしていた。

 それが少しだけ眩しく感じたのはなぜだろうか。

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