ブス・わがまま・いうても
「それで。君が物語の力を使えたのが実は問題でね」
本屋さんは神妙そうに切り出すと、本棚から一冊の本を持ち出してきた。
「物語の力を使うには媒体が必要なんだ。物語っていうのはわがままでね。自分自身に共感してくれた人間にしか力を貸さないみたいなんだ。だからこの本みたいに。自分が一番、思い入れのあるものを持っている必要がある」
「えっ。でも昨日そんなものは持っていなかったですし、そもそも思い入れのある物語なんて……」
自慢じゃないけれど本は読まないしゲームもそこそこでのめり込むまでやり込んだものはない。それに昨日は相手の物語をコピーした感じだ。物語に共感なんてした覚えはない。
「あれ。なんで昨日物語の力を使えたんですか」
「まあ。だから問題なんだよ」
「いや、昨日使えって言ったの本屋さんじゃないですか。つまり使えるの知ってたってことですよね」
でなければ昨日の本屋さんの態度はおかしい。本屋さんの指示通りにビームを撃ったのだから。
「そう。まあ実を言うと試したんだ。ちょっと確かめたかったから。ねえ。突然なんだけど名前を聞いてもいいかな?」
確かに名乗っていなかったことに気がつく。
「
「そうか。僕は
なんだか不思議な感覚に襲われる。その正体はわからないが、いいものではないのだけは分かる。
「佑くんでいいかな。佑くんは今何歳?」
「えっと、16歳です」
「家はこの辺?」
「ええ。ここから歩いて10分くらいのところです」
「両親はお元気?」
「元気です。ただ海外赴任している父に母がついていってしまっているのでよくはわかりませんが」
「今日、学校は?」
「学校?そういえば学校。あれ?」
先程までの不思議な感覚がだんだんと恐怖へと変化してくのが分かる。どうして学校に行こうという発想がなかったのか自分でもわからない。
「まあ。そうだよね。そういう風な話じゃないからそうもなる。いうてもしっかりと定着しているようだけれど」
「な、なにを言っているんですか。話が見えてこないんですけど」
「そんなことは無いはずだ。もう佑くんは理解しているはずだ。君がなにものであるか」
九重佑はふつうの高校生だ。ちょっとだけブスで暗くて、周りから少し距離を置かれるだけの普通の高校生。そのはずだ。でも、事件に巻き込まれてからは激動な人生を送ることになる。
特殊な事件だ。超能力と呼ばれる能力が飛び交う超次元な戦争が行われているというそんな設定。その中で九重佑はコピー能力を駆使してその戦争でのし上がっていく、そんなヒーロー漫画。
「僕は……物語そのものなのか?」
本屋さん……勉さんはゆっくりとうなずいた。
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