あぶり・丸出し・マネージャー

「あぶり出すつもりだったのに。扉の鍵は開いてた。逃げたのになんでそんなことした?」


 男性は先程に比べて随分と落ち着いているように見える。急に襲ってくる気配もない。


「落ち着いてもらうためですよ。随分と冷静になられたようでなによりです。いくつか質問したいのですがいいですか?」


 男性は少し悩んだあと、なんだ。と短く了承した。


「ここは誰に聞いてきました?」

「マネージャーと名乗る人物だ。直接あってはくれなかったけれど、ここに来ればなんとかしてくれると聞いた」


 本屋さんの表情が少し曇った気がした。マネージャーと言う人物によくない思い出でもあるのだろうか。


「では次。なんで壊したんです?うちに用事があったんじゃないんですか」


 本屋さんはなんだかちょっと機嫌が悪いのかぶっきらぼうに質問している。自分の店を壊されたのだからそんなものなのかもしれないが、先程までの態度と違うので少し違和感を覚える。


「壊すつもりなんてなかった。ここに来れば力を制御できるようになると聞いていたのに。同志を見つけたら急に意識が遠のいて……」

「なるほど。物語には行動動機がそれぞれあるみたいなんですがあなたの物語の場合、なんでしょうね。同族を許さないとかですか。読めば分かるのでしょうけど、その時間はなさそうです。随分と進行している」

「同志は一緒にいなくてはならない。いつまでも永遠に」


 突然、男性の様子がおかしくなった。雰囲気が急に殺気立ったのだ。


「ふう。どうやらほんとに時間はないようです。ここの本まで焼かれるのは嫌なのですが」

「そんな呑気な感じでなんとかなるんですか?」

「なんとかするのはお兄ちゃんだよ」


 隆司くんがそんなことを言っていて、なんのことだかわからない。


「彼も言っているだろう。君は同志なんだ。だからその力がある」


 本屋さんまでおかしなことを言い始めた。


「君も本が好きなんだろう?それも物語が。だからうちを見つけることができた」


 確かに本は、物語は好きだけれども。そこまでのめり込んだことなんてない。もちろん手が機械じかけになったこともだ。


「ここってそんなオカルトな場所なんですか」


 その雰囲気はあった。誰も知らないのだ。ネットで調べても出てこないのだ。


「そうですよ。普通の人はたどり着きません。それが偶然であっても。まあ最初は慣れないかもしれないでしょうが。簡単ですよ。イメージするだけです。彼とおんなじです。機械の手からビームを出すイメージ」


 言っていておかしくなったのか本屋さんはちょとだけ笑ってしまっている。


「えっ。本当に僕がやるんですか」


 現実味のない話に完全に置いていかれている。


「ええ。早くしないと向こうから撃ってきますよ」


 確かに男性はこちらに手のひらを向けていてそこからはぽっかりと空いた穴からは確かに光が漏れている。


「大丈夫きっとできるよ」


 隆司くんがなんの根拠もなくそんなふうに言ってくる。


「できたらなんだって言うんだっ」

「やらないと死んじゃうよ?」

「殺したくはない!」

「大丈夫。相手は死にません。物語の力で人は殺せません。殺せたとしてもそれは見せかけ。でもここは地下です。あんな物を放たれたら物語の力は関係なくぺしゃんこです」


 呑気な雰囲気に力は抜けつつも恐ろしいことを言っている。確かにここは地下だ。押しつぶされるのは間違いない。


「やるだけやってみればいいのか」


 先程のビームのイメージと目の前にある機械じかけの腕を重ねる。それを自分の腕がそうであるとイメージする。


「おお。上手ですね。才能ありますよ」


 本屋さんが驚いている。続けて自分の腕を見てぽかんとする。傍から見たらアホ丸出しな顔をしているだろうと思う。だって本当に腕が機械じかけの腕に変わっているのだ。誰だって驚く。しかもなんの違和感もない。まるで自分の腕の様に動く。


「ほらちゃっちゃとビーム撃っちゃってよ」


 隆司くんが楽しそうにしている。こうなったらやけくそだ。手の平を男性に向ける。なぜだかビームの出し方も何となく分かる。入り口に立っている男性を後ろの階段一直線に外まで飛び出すようなイメージを引き出す。


「いっけぇ!」


 柄にもなく叫んでしまったのはきっと物語に取り込まれたからだ。そう思うことにした。

 手のひらからまばゆい光が飛び出すのを見ながらその衝撃に意識が遠のいていった。

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