100万ドルの・系女子・BL
「ここは書庫だよ。店頭に置けないものもたくさんあるんだ」
部屋の中の見渡しすぎたのか店員さんがそんな風に声を掛けてくれる。椅子を用意してくれそこに座るように促された。
「ここにあるのも全部、物語の本。それが力になるって本当なんですか」
「そうだよ。物語から力を借りるんだよ」
「それであんなビームを出せる機械じかけの手を手に入れられるっていうの?」
隆司くんに聴くことではないのだろうけれど、本屋さんはなにか作業をし始めていて聞ける雰囲気ではなくなってしまっている。
「そうだよ。彼はSFが好きだったみたいだね。それもあらっぽいやつ。破壊衝動も強かったみたいだし、取り込まれちゃったみたい」
「取り込まれた?」
「物語の登場人物の行動指針に引っ張られるみたいだよ」
「隆司。それくらいにしておきなさい。困ってるだろう」
本屋さんが近づいてコーヒーの入ったカップを手渡してくる。
「詳しことはわかっていないんですよ。ああいった超常現象が存在するのは確かなんですが、その因果関係が解明されているわけでないのです。ただ、物語が寄り添っているのは間違いないですが」
超常現象が存在するってそんな呑気な状況ではなかったような気がしたのだけれど、なぜのんびりしているのだろう。
「100万ドルの価値がある建物だったのだけれどね。ちょっと残念です」
ちっとも残念そうに見えないのは気のせいなのだろうか。
「彼がここに来るまでにもうちょっとお話をしましょう」
本屋さんは書庫の中を歩き回りながら様々な本を手にとっていく。
「ひとことに物語と言ってもたくさんあります。ファンタジー。ミステリ。ラブコメ。SF。ホラー。BL。異世界物。それらは本だけではなく、音楽、映画、アニメ、ゲームと媒体も様々。のめり込みすぎるのはいいことなのですけれど、それが過ぎると世界自体が物語になりきってしまうらしいのです」
「人が物語を現実にしていると?」
「そう一方通行ではないようなのですがね。物語自身にも意思があるように思えます。物語にも草食系男子や肉食系女子のように色々あるようなのです」
わかるようなわからないようなその説明を受け入れることはできそうになかった。
「だからそこにいる彼も、物語にのめり込んだ、普通の人ですよ」
「こんなところにイタ。同志は一緒にいなくてはならない」
黒服のスーツの彼はいつのまにかすぐそこまで来ていた。
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