第13話 死の闘技場

死の闘技場、そこは対象者の死が決まるまで解放されることが許されない。勝者には本当の勇者の称号が与えられる。

私はこんな真っ黒い血の匂いが充満した闘技場を初めて見た。

『こんな所地上にあるとか面白いなぁ…』

「お前今から俺たちに殺されると言うのに呑気だな」

『ギヒヒ死ぬのはどっちだろうね』

マスターは口を開く余裕すらなかった。

他のマスター達も勇者と共に、集まってきていた。

あぁ…ここにいる人間全員敵だと思うと…楽しくなってきた♪とても…楽しみだ…

そんな考えをしているとガッシュが隣から

「そんなに楽しみなら人間の姿辞めたらどうだ?」

『…どの姿で居ようが私の勝手だろ?』

「こりゃ失礼」

そして宙に浮いている観客席に全マスター、及び勇者達が1度席に着いた。それを見ていたかのように、球体のいかにも偉そうな観客席が現れた。

もちろんそこにはマスター長が居るんだが。

「皆よく集まった。感謝する。今回集まってもらったのは他でもない。ギルドアイアースの勇者が魔物になった為、他ギルドの勇者に討伐を依頼すべく、集まってもらった。」

アイアースのギルドマスターは、周りの目が痛いのか顔すらあげることも出来てない。コイツは悪くないのにな。

「討伐対象はアイアースの魔物、白い大蜘蛛。この者を討伐するまでこの闘技場からは出ることは許されない。出る方法は2つ。死か討伐か」

勇者達が固唾を呑んだ。私は話長いなぁ思っていた。

「さて話していても仕方ない。魔物よ、死の闘技場に入りなさい。」

『やっとか…長ぇよ』

各マスター達の殺気がゾッと私を襲ったがそんなの何も怖くない。観客席から飛び降り、死の闘技場へと降り立った。

「ではルールは簡単、勇者達でこの魔物を討伐するだけ。この魔物が死ぬか勇者が全滅するかどちらかになるまで観客席に戻ることは不可能。それを理解した者から、白い大蜘蛛との戦場に向かいなさい。」

「なぁマスター長よ、途中参加ってのはありなのか?」

「認めよう。だが勇者たるもの参加しないと言う姿勢を見せるのであれば剥奪させてもらう」

「し、死ねと言っているのか!」

勇者の1人が声を荒らげながら発言した。

「死ぬのが怖いなら倒せばいい。それだけよ」

『おっさん物分り良いな、私は好きだぞ?ギヒヒ』

この1人の魔物のせいで勇者が全滅するかもしれない。その恐怖に皆脅え動き出せずに居た。

「皆動かんのか?なら皆勇者の称号は剥奪となるが?」

「クソ!行ってやる!」「殺してやんよ!」

そういい3名の勇者が死の闘技場に降り立った。

「死ねぇぇ!!」

そう言い私に大剣を大きく振りかぶり襲って来た…と同時に右手後方から魔法詠唱を始め、氷の槍を飛ばし、左側からはビースト化した勇者が勢いに乗せて切り裂こうとしてきた。 …はぁ

まず私は脚を2対出し、右側から飛んでくる氷の槍を軽くあしらった。そして左側から切り裂く為に宙に飛んだアホを脚で地面に勢いよく叩き付けた。

「ッグハ…」

そして目の前の大剣は狭角を出すと同時に防ぎ、目の前の勇者を、後ろから羽交い締めにし狭角伸ばし首に突き刺した。

「アァ…」

勇者は全身の力が抜け、私が離れるとピクリとも動かなくなった。その間にも魔法を放ってきた勇者は次の魔法を詠唱していたのは素晴らしいと思う。次どんな魔法が来るのか楽しみにしていると、予想通りと言うべきか小さな火の玉が飛んできた。そして私の近くで大爆発した。

「やったか!」

そう喜んだ勇者だったが煙の中から私が勢い良く襲いかかろうとするとビースト化した勇者が間一髪救い出した。

「ごめん」「いい」

『お仲間がいてよかったねぇ〜ギヒヒ』

爆煙がまだ残っている中そう話していると後ろから龍の形をした雷撃が2発私の背中に直撃した。

流石の私もよろめく。振り向くとまた3人の勇者が参戦していた。

「私の電撃を食らってよろめくだけとは…恐ろしい…」

『んー痛かったよ?お返ししなきゃね♪』

そう言い私は踵を返し、さっきの2人の背後に立ち狭角を1人1本突き刺した。2人は抵抗する力も無くすぐにだらりとした。

「最初の3人は脱落…か…」

「アイアース!てめぇ俺らの勇者の存在どうしてくれるんだ!てめぇも俺らの牢獄にぶち込んでやるからな!」

おお!観客席が盛り上がってきたねぇ〜

そう見ていると勇者が6人に増えていた。うん面倒。1人ずつじゃないだけマシか…そして…ガッシュはまだ、動かないっと。

『6対1じゃつまらないだろ?私の友達を呼んであげるよ♪』

そう言い4個ある目のうち1番左の目に魔力を集めながら、2対の脚先から糸を出し3人の死体を1箇所に集め、そこに魔力を放った。

魔力が当たった3人の死体は黒く溶け合い1度スライム状の姿に変わりそして人型に変形していった。

「ヴォォォ!!!」

「だ、ダークナイト…だと…」

ダークナイトは、ディラハンの1つ上の死霊生物。

『これで6対2だよ。』

もう勇者達は足がすくんでいた。所詮勇者なんて人間のちょっと強いだけ。特にこの世界は昔の勇者の子供には強弱関係なくその称号が付く。

『来ないの?ならダークナイト、殺れ』

「ヴォォォォォォ」

ダークナイトが1人に目掛けてかけて行った。決して早くは無いだが、その体の大きさや禍々しさに脅え上手く動けないのも事実。女勇者は死を覚悟し目を瞑った。…が痛みは来なかった。

『へぇ…ガッシュやっと来たんだ。』

ダークナイトの剣を大剣で弾き返す程の力があるとは驚いたなぁ…

そう感心していると後ろから短剣を振りかぶっている勇者が居たが、ひらりと避け、まだ人の足で踏みつけた。そして脳天を右の蜘蛛の脚で貫いた。

1人がずっと詠唱しているのも気になるが…何しているのか…と思ったらいきなり開眼し、死の闘技場全体に光属性の魔法をぶっぱなした。

2人ほどの勇者は見えない壁にぶつかり苦しそうにもがいていた。私は…

『…ヘェ、初メテの痛ミ…ギジギジ』

人間の姿を解除させられた。そしてその魔法を放った勇者を見ると、ゆっくりと崩れ落ちていた。命懸けの魔法を使うとは。まぁ痛かっただけだけど。

ダークナイトは流石に消え去っていた。

『ジャア、今ノ分ハ、返スネ』

そういい8個の目に魔力を溜め地面に放った。それは通称「地獄の床」と呼ばれる物らしい。勇者達を床から出てくる無数の腕が地獄に引きずり込もうとする魔法。

見えない壁にぶつかった2人は意識もほとんどなかった為、呆気なく取り込まれて行った。他の勇者も魔法や武器で応戦していたが、それも虚しく床の中に消えていった。1人を残して。私はお尻を床に着け地獄に取り込まれて行った勇者の能力を取り込んだ。と同時に上から私の腹と頭の関節部分目掛けて剣を振り下ろすガッシュが居た。

私は急いでリザードマンの鱗を関節部に集め、硬化魔法を唱えた。そしてガッシュの一閃…

『ギィィィッ!?!?』

かなりの衝撃が私を襲った。

『イ…タイ』

「流石に割けないか…頑丈過ぎだろお前」

『ギィィィ!!!!!』

私は糸を出しガッシュの動きを止めようとしたがガッシュがそんなの通じる訳もなく、サラりと避ける。私はお構いなしに糸を吐き続けた。

「そんなのしょっぱい攻撃当たら…なっ!」

『ギヒヒヒヒヒヒヒ』

そう、私の狙いは死の闘技場を糸で足場を無くすこと。ガッシュの右足は見事に糸を踏み抜いていた。

そして剣を持つ手に氷の槍を放った。流石のガッシュも剣を手から離した。それは蜘蛛の糸の上に落とすこと。粘着性の強い糸に落とされた剣はもう使われないだろう。そうゆっくりと近づき、私はお尻の針でガッシュを一刺しした。

「グハッ」

睡眠と麻痺、猛毒を含んだ一刺しはガッシュを次第に蝕み意識を奪っていった。ガッシュは最後の言葉とばかりに

「た、楽しかったか?」

『ギヒヒモチロン』

そう言われ私は狭角を伸ばし、ガッシュに突き刺した。ガッシュの小さな呻き声が死の闘技場にこだました。そしてガッシュは

「タダでは死なねぇぜ…!」

と剣を力ずくで引き取り私の腹部にぶっ刺した。

「ビギャァァ」

叫んだ際に狭角が引っかかりガッシュの首が飛んだ。そして流石に私の外面は硬くても腹部は薄く、そこを刺されるなんて油断していた。

緑色の血が止まらない。回復魔法と治癒魔法を同時併用し、少し治まったがとても痛い。

だが私はゆっくりと立ち上がりマスター長を見つめた。勇者はもう居ないと。

「君の勝ちだよ、白い大蜘蛛」

『マズダシテモラオウか?』

「それは出来ない。」

「ドウイウ意味だ」

「ここは死の闘技場、そこに入ったら最後、死ぬまで出ることは不可能。」

「騙シタノカ?」

「勇者を失うのは苦しいが君を野放しにするくらいならね。」

「…。」

私は人間の姿に戻った。腹部には傷がまだ残っている。

『私を騙す…騙す。契約違反…』

「魔物を守る契約なんてありゃしないよ」

『…そうか…なら私が…何をしても良いんだな?』

「何?その頑丈な場所で何が出来るのかね?」

観客席に居たマスター達は静かに息を飲んでいた。

私は見えない壁にそっと触り…そして噛み付いた。

「な、何をしている!?」

引きちぎり噛み終えるとついでにガッシュも食らい、死の闘技場の中央に移動した。もちろん蜘蛛の姿で。そして再び8個の目に魔力を溜め始めた。

「ソナタまさか!」「し、死ぬ!」

「あれを今はなったらこっちまで来るぞ!」

そんなのマスター達の悲鳴は無視し床に魔力を解放した。するとさっきより大きく死の闘技場全体を包み込みつつそれよりも溢れ出るように「地獄の床」の手が観客席めがけて伸びた。

あちこちから悲鳴が起こり、抗うも無駄に終わり飲み込まれていくマスターたちの姿を8個の目で見ていた。アイアースのマスターは潔く抵抗すること無く、飲み込まれていくのも確認した。

マスター長も例外ではないく襲われていたが魔力で壁を作り守っていた。私はそちらを見つめ少し魔力を強めに送ると何かがひび割れるような音がし、そして一気に飲み込まれて行った。

そしてゆっくりと「地獄の床」は私の全身を覆い被さった。

「地獄の床」に覆い被された私は意識を失った。

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