第6話 勇者

私は目を覚ますと、ベッドに横になっていた。ベッドに良い記憶が暫くない為か、起き上がってしまった。

そばには水と小さなパンが置かれていた。

『…何処』

その言葉を待ってましたかの様に扉が開いた。入ってきたのは私を抑え込んだ男性とその肩にはトカゲが居た。

「ここは、僕のギルド…と言うべき場所かな?色んな訳アリ達の集まり…と思ってもらっていいさ」

【体痛くない?】

『痛みはない。私を何故連れてきた。』

「貴女は完全に理性がなくなっていたからね。あのまま放置していればハンターズギルドの討伐対象になってしまうからね。人間としても貴女としてもどちらも大きな損害を生むところだったからね。」

『理性…』

「そう、貴方もまだ死にたくないでしょ?」

『さぁ?私はもう人間ではない。ならいつ死んでも良いと思っていた方が理にかなっていると思うのだが?』

「私は貴女を救いたい…と言ってももう蜘蛛の体から人間に戻すことはもう…」

『気持ちだけ貰っとくよ。私はもう行かせてもらう。もういる理由も無い』

【なら僕も…】

『お前はここに居ろ。邪魔だ。』

【え…ぁ…】

「短時間でも一緒に居た者をそう扱うのはちょっと許せないねぇ、蜘蛛さん?」

『邪魔な物は邪魔だ。事実を述べて何が悪い』

「貴女にはここにいてもらわらなければならないんだけどな」

『何故』

「私と共に旅をしてもらう。私の補佐…とでも言おうか。」

『なぜ人間でもない私を?それにお前は勇者だろ?それが大蜘蛛を引き連れてると知られた時…世の中はどう反応するかな?』

「よくわかったね。私は勇者さ。確かに他にも強気心も体も持っている者もいる。だがあえて貴女を選ぶ。それは貴女を害のない生き物とする為…」

『見せしめ…ふん、私をまた実験台にするのか。どいつもこいつも…私の事を…』

「違うよ、私といれば悪い者と思う者は少ないでしょ?私が貴女を守る。その為に、共に旅に出ようと言っているんだよ。」

『思っても口に出せないだけだろうけどな。まぁいいや、どうせやることも無い。本能のままに生きようとしてきたらまたお前に会いそうだしな。』

「私もその辺の察し能力あるんだよ、ごめんね。」

【あ、あの…僕は…】

「あぁ君は…彼女が嫌がってるからね…お留守番でもいいかい?必ず2人で戻ってくるからさ」

【わ、わかりました】

私はドアの入口にたむろしている連中に

『勇者様を連れ出して悪いな。私の姿見たいなら見せてやるぞ?絶望しろ』

そう言うと入口のざわつきは少し静かになった。

「脅すのは辞めてもらってもいいかな?一応私の仲間なんだ。」

『仲間だから盗み聞きしていいという理由があるギルドなのか?』

「はぁ…すまなかったよ」

そう言われても何も感じない。そして立ち上がろうとすると勇者に手で制止された。

『…なに』

「君に名前を与えなきゃと思ってね。」

『名前…あった所で何になる。』

「能力の向上、呼びやすさ…とかかな。」

『主従関係になるなんてつまらねぇ事にはならねぇよな?』

「ならないよ、ただ普通は感謝して着いてくる、従事者を望むとか、そういう人が多いだけ。貴女はありえないでしょ?」

『よくご存知で。』

「名前か…何にしようかね…アラクラ…なんてどうだい?」

『好きにしろ』

そう言うと勇者は手を伸ばし私の胸元に向かって

「貴女の名前はアラクラ、白く聖なる蜘蛛へ」

そう勇者が唱えると私の体はほんのりと光を発し温かくなった。少し勇者は疲れたように見えた。

「それじゃアラクラ、行こうか。今早速向かわなければならない場所があるんだよ」

『待てよ、お前の名前は?』

「私に?名前なんてないよw勇者って総称があるからね、要らないでしょ?」

『…ガウラ、それがお前の名前だ。』

その瞬間勇者の体もほんのりと光を発した。そして理解した。あぁ名前をつけるのには体内の魔力を使うのだと。

「アラクラ…貴女は名前を付けて疲れないのですか!?」

『少しだ。別に問題あるのか?』

勇者ガウラは驚きを隠せない様だ。なんと言ったって勇者に名前をつけるんだ。相当な魔力を必要とするはず…なのにこの蜘蛛アラクラは、少しと言った。ガウラは本気で戦ったら負けるかもと思ってしまった。

「い、いや。なら行こうか、アラクラ。」

そういい2人は立ち上がった。トカゲは人の姿になり、一緒に部屋を後にした。








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