第5話 戦場
私とトカゲは森林の中を歩いていた。だが、私の耳に微かに争いの音が入ってきているのを認知している。トカゲの方も落ち着きがなくなっているから、何となく察しているのだろう。だが、念の為聞いてみた。
『どうした』
【何か…遠くで血なまぐさい…】
『君は嗅覚なんだな』
【…?あなたも何かを?】
『…私は聴覚だ』
【なるほど…あ、肩に乗ってて重くありませんか?もし重いなら人間に戻りますが…】
『…重くはない。今更。』
【す、すみません】
会話の様なものを挟みながら私は木陰に隠れた。その先には…人間と魔物が対峙しているのを目にした。どちらも怪我人、死人が数名出ている為、中盤戦といったところか。
ゾワァ
この血の匂い私の破壊衝動を逆撫でる。人間で居るのがキツい…
【だ、大丈夫?】
『大丈夫に見えるならお前の目は節穴だ』
【僕離れる?】
『生きていたいならな』
【わ、わかった。】
トカゲはトカゲの姿じゃ素早さが遅いと判断したのか、人間の姿になり、私から離れて行った。
横目で確認した後人化は、ほぼ強引に解かれた。
『ギィィィぃぃぃぃ』
そして第3勢力として人間と魔族の戦の狭間に参戦した。
人間と魔族達は疲労していた。人間のリーダーは回復役に回復を命令しつつ、自分は前線に出ていた。
魔族の長は魔力を使いつつ、それを妨害し、人間のリーダーを、落とそうとしていた。
そして睨み合う2勢力は一気に鳥肌と悪寒に襲われた。何か…来る…そう感じ気配の方に全員体を向けてしまった。
そこには白を基調とした大きな蜘蛛がとてつもない速度で向かってきてるのを確認した。
『…グギィィィャャァ!』
大蜘蛛の鳴き声にそこに居たものの体が硬着した。
そして大蜘蛛のそばにあった魔族の死体を大蜘蛛は貪り食った。それは血、肉、骨、全てを無にする勢いで喰らっていた。
皆が呆気に取られているうちに1つの死体は小さな血だけ残し何も無くなった…
遠くからトカゲもその姿を見ていた。ただただ恐怖を感じ何もすることが出来なかった。
『ギィィァァ!タリ…ナイ!』
「長!コイツはなんですか!やばいですよ!」
「リーダー!コイツとは交わってはなりませぬ!」
「「わかってる!全員退避!」」
『…ニ、ニガサナイ』
そう言い大蜘蛛はその場で回転しつつ糸を出しながら放電した。
それは2勢力全員に命中し、麻痺状態にし、糸で動きを制限すると言う方法で体の自由を奪った。
「火の魔法を使えるやつは放て!」
魔族の長がそう言うと、人間も含め何名かが、火の魔法を、放った。
2勢力の火の魔法が重なった為、かなりの威力になった。糸も切れ、自由になる…はずだった…
『ギィィィ…』
糸も大蜘蛛も健全。どこからともなく落胆の声が溢れ始めた。
大蜘蛛に表情なんてない。なのに人間も魔族も笑っている。そう感じてしまっている。
そして今度は人間のリーダーの元にゆっくりと近付いた。リーダーは睨みつけていたが意味もなく触肢で持たれ、牙を突き刺し、ゆっくりと皆が動けない中捕食されていった。
残ったのは初めの餌食の魔物と同じく、小さな血のみ。
次は魔族の長。来ると思っていたが本当に次にくるとはな。そして人間のリーダーと同じ様に牙を突き刺され更に自由を奪われ確実に、ゆっくりと体は捕食されていった。
『ウア゙ア゙ア゙ア゙ア゙タリヌ!』
そういいそこに居た人間及び魔族は大蜘蛛の餌食になった。
血なまぐさい戦場だった場所に1匹の大蜘蛛が雄叫びを上げながら暴れていた。トカゲは理性をどう取り戻すか考えていた。普通に対峙しても勝ち目が無いこと自体あんなの見てたら誰でもわかる。あの人は、完全に理性を失ってる。どうするか…そう考えていた。すると、1人の男性がトカゲの目の前から現れた。
「大丈夫、今彼女を戻してあげるから」
そう言い、大蜘蛛の元に向かった。あの人はすぐに男性の気配に気がついた。
『ギィィィャャァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙』
叫び声を上げ糸を出し絡め取ろうとしたが、男性は全てを剣で切り裂いた。
『!?』
「大丈夫、落ち着いて。私が貴女を元に戻すから」
そういいポケットから1つの石を取り出した。
それは透明で綺麗な水晶だった。それを手に持ち大蜘蛛にゆっくりと近付いた。
大蜘蛛は逃げようとしたが、周りは数人の忍びが取り囲んでいた。それに動揺しているうちに男性は大蜘蛛に、近づき水晶をかざし
「彼女の破壊衝動を抑えて」
そう言うと水晶は光を放ち、大蜘蛛を包み込んだ。
『ギィィィャャァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!』
そういい大蜘蛛は苦しそうな声を出し倒れ込んだ。
そして光が放ち終えると、うつ伏せに倒れている1人の女性の姿があった。男性は女性の顔を覗くと目が4個ある事を確認した。
「はぁ…手遅れだったか…彼女を保護する。」
「はっ」
「君もおいで、君はだいぶ制御できてるみたいだけど念の為に私たちの所においで。」
【僕も…ですか…】
「彼女を1人にするのかい?」
【…い、行きます。】
トカゲは彼女を担いだ男性の後に着いて行った。
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