第4話
まだ名前の付いていない場所もそこらじゅうにある。雨が降ってないのに雨漏りするあばら家……既にもう死んだ賞金首の手配書ばかりベタベタと壁に張られている通り……「存在しない」奴しか参加できない蚤の市……おれとエメリーは常に青い蝶が灯りの周囲を回るボロアパートの一室にいた、ここの区画にはこの部屋しか存在しない。あの蝶を引き裂いても目を離せばまたそこを飛んでいる……
魔剣と呪剣の違いははっきりしないが、持ち主に害をなすかどうかっていう点がおおむねそれで〈
「おたくはまた感覚がおかしくなってんのかい?」木箱に腰掛けた前髪の長い女が言った、ブラニアの僧侶であるキンバリー・シャーマンって名前だったと思う、おれの感覚はもちろんおかしくなっていない、凪いだ海のように……「分かった分かった、過去とか未来ってのを問題にすんのはよそう、で、『寄付金』の払いがまだの業突く張り野郎が薄明棟に住んでんだけど、ちょいと
言わずもがなのお喋りだがおれたちじゃあなく専門のそういうスタッフがいるはずだ。
「最悪の戦略に出たんだよ、阿呆が好き好む自爆さ……どこぞの三流呪術師にてめえを呪わせた。私はおたくらプロフェッショナルに及ばねえけどちっと聞きかじってんだ、奴から金をとり立ててれば……汚ぇ
差別意識と金が依頼を阻んでいると、守銭奴同士仲良く……できるはずもなく。
「おんなじ神様を信じてても、いや信じてるからこそ上下関係ってのが幅を利かせてんだ、私は『割増』の二文字が
どれのことを言っているんだ? 頭が二つある黒い犬が肉を食っている……〈ブランハイムのルカ〉が今朝がた朝靄の中から姿を現し、オレンジを齧って血を吐いてぶっ倒れた、奴はだいたい全部の食いものを食べると中毒を起こす、例外はタコとか人肉だけらしいが、タコを食うならカマキリを食った方がましだとかで食事のたびに意識を失っている。死にはしないけどそのたびにこいつの意識は変質し続けているようだ。もちろん本人としてはずっと同一のままらしいが……とにかくおれがすべきことは、目を覚ます前に奴の中和剤を掠め取ることだけだ。
どうにもやる気が出ないってんで先延ばしにしておいて、何かの気まぐれで着手したとたん一瞬でカタがつく、ってケースは多いがこの日の〈前傾水〉採取がそれだった……地下街のやくざなエリアで泉に手を伸ばし……虫歯持ちのガンマンが五人ばかしそこを塞いでいたが、エメリーが〈ウーズスレイヤー〉で始末をした……なんだってそんな名前なのだろう、伝説的なウーズを何度か討伐しなきゃそれは名前負けってもんだけど……
そんで〈第六十二番〉の作成が可能となった。〈総意〉によって閉ざされたほぼ壁なドアを開錠できる……が生け贄は必要……〈半壊ダイス〉にかけて。ルー審問長はソラーリオの正統教会から派遣された年嵩のエルフで、絵に描いたような旧態依然の思想、もちろんバカンではダグローラ信徒なんて外様ってことを熟知している聖職者が多数派だが、審問官の権威ってのはなかなか厄介だ……モンローもさぞ頭が痛いことだろう。自由に収賄できないなんて……
「さっそくだけど正午までに嗜呪症患者六名の相手をしてもらうよ今日は」班長は詰め所に入るなり言った。「青黒いほうの太陽から目を逸らしてはいけない、ディマス島から流れてきた漂着性潜界存在だよ」
連絡事項のあと騎士全員にコーヒーが配られたが、いやにドロドロしている。ギリー・ドゥ……ルカ……シュルー……サイプレス……〈淡き光のソーニャ〉……〈暴き屋〉……おれが最後に飲み干すと次は角砂糖が配られた……少し火であぶっただけでそれは蒸発し、煙は廃屋の崩れかけた天井付近でとぐろを巻く……二秒後にはもう翌週になっている。
「正午までに嗜呪症患者三十二名の相手を……」
「エメリー、昨日殺したあのゾンビどもは……」「また深淵なる物語二つ持ってるけど聞く?」「いいやよそう、どうにも違法操作の痕跡があったはずだ。魂魄・脳髄間ギャップによる譫妄状態からいささか逸脱した……」
いったん〈
「例外か。そういやどうしてあの人はあんなことを言っていたんだ? ブツを見せてくれよ……」
エメリーが投げてよこしたそれはダグローラの聖印だった……真鍮でできたそれは司教以上しか持てない代物で……
「犯人は一人しかいない……もちろん即時報復に出る。月神エルズと総長スコルの名において」
呪詛が空を覆いつくすだろう、四百年ぶりの真夜中の処断にて。
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