第60話 自分って?

 自分のことが本当にわからない。

 いや、多分わかってるんだと思うけど、自分の思い込みや勘違いだと思われたくないから言いたくない、というのが本音なのかな。

 もちろん、本当にわかってないこともある。店のスタッフの子に「オノダさんは人の良い所を探すのが上手だと思います。私は店長がオノダさんだったから、今までやってこれたと思います」と言ってくれた。もしかしたら社交辞令や、現在ちょっと落ち込んでいる僕に慰めてくれただけかもしれない。

 この子は不器用なところもあって、ちょっとしたミスが多かったり、考え方の違いで意見がぶつかったりすることがよくあった。でも、『人』を大事にする子で、上手くできないなりに、何とかしようとしてのミスだったりするので、僕はあまり叱ることはなかった。そこには「気持ち』があってのミスで、なんとかしようと努力している姿を見ると、叱るよりもそれは彼女の長所だと思えた。

 きっちり叱ってやりミスや苦手を無くすことの方が店長としての務めだった。たが、そんな他愛無いミスよりも、その長所に気付くことの方が大事だと思った。

 彼女はそんなところを見てくれていたのだと思う。


 あー、俺って人の長所を見つけるのが得意なんだ


 と、その言葉は有難く思ったが、反面、人の悪い所もすぐ気になってしまう。揚げ足を取るのも得意だ。


 すると、「自分の長所は人の良いところを見つけることです」と堂々と言えない自分がいる。


 なんでこんな話になったかというと、最近落ち込んでる話にも繋がりますが、今勤めている店が閉店することになったのです。自社は全国に数十店舗ありますが、静岡には1店舗しかなく、担当店舗が無くなるというと転居して異動ということになります。

 子供はもう手のかかる歳ではないので、単身赴任もアリなのですが、静岡にどっぷり46年も住んでいるとなかなか都会での一人暮らしという気になれないのが本音です。要は転勤して残留か、静岡で探して転職か、どっちかにするしかないということです。


 人生最大のピンチ......なのですが、わりとどうにかなるさと思ってるところもあるかも。今まで店が閉店したり、会社の規模が縮小するタイミングでたまたま他から声がかかったり、と何度かの転職の際も間が空いたことがなく、自慢ではないが失業給付はまだ1度も貰ったことがない。

 とは言え、それも若かったから話がすぐ来たのであって40代半ばになると、ちょっと様子が違ってくる。僕みたいな販売しかやってこなかった人間なんて、その辺にゴロゴロいるだろうし、しかも閉店する店の店長だ。もしかしたら仕事できない人なんじゃないかと疑われても不思議はない。


 ですが、このご時世ブランドの流行りや、最近ですとコロナの影響とかで外的要因が多く、店舗だけでどうにもならないことは考慮してくれる。


 そこで、この人はどんな人なんだ、どんな可能性があるか、と根掘り葉掘り聞かれる。


「まずは自己PRお願いします」


 面接の初手でこれを聞かれる。これが苦手だ。


 僕自身、たとえ人気のない商品であってもどんな良いところがあるか、どんなところがお客様にマッチするかを考えてアピールすることはできる。だけど、それは商品だからできる。自分をアピールしてくれというのが苦手なのだ。従業員のことを褒めるのもそうだ。お世辞ではなくマジで褒めている。自分の良いところっていうのがわからない。


「僕は〇〇スキルがあり、即戦力として活躍できます」


 なんて言う奴がいると、やってから言えよ、みたいな目で見てしまう。大抵初めからこう言うこと言う奴って、後からやらない理由をタラタラと挙げて戦力にならない奴がほとんどだった。こういう勘違い野郎だと思われたくないから言えない、というのもある。

 転職サイトの「面接の見本動画」なんか見てみると、ハキハキ答えている動画を見て、何言ってんだコイツ、と思ってしまう。

 どこかでは悶々と自分のことはできる奴だと自分自身で思っているところもある。でもそれは自分で評価するんではなく、他人に気づいてもらえるところまでいかないと、なぜか自分では言ってはいけない領域のように感じている。


 つい先日、クローズする店舗の跡地に出店したいという企業から、面接する機会をいただいた。そこで出鼻の自己PRでグダグダになった。大人の対応をしようしすぎて、あんまり特徴のないことを言ってしまった。若い頃は「誰とでも気軽に話せます!」「みんなが声をかけないお客様にも声をかけて、誰よりも接客数が多く売上もトップでした」なんてノリで言えたけど、もうこの年齢になってくると『元気』だけを売りにできない。

 あまり面接官の気を引かなかったためか、チョロチョロと何を聞き出したいのかわからない質問をされた。それについて策略もなく、答えた自分も「え?俺、そんなこと考えてたっけ?」みたいな答えを繰り出す。

 質問されればされるほど、俺は誰の話をしてるんだ、と現実にはいない人間の考えを他人事のように答えてしまっている。繰り出された質問の答えも、多分矛盾する答えがあったと思う。さっき答えた内容を忘れてしまっている。


 あー、こりゃダメだ、という答えを続け、もう帰りたくなった。


「最後に何かありますか?」


 と言われ、


「もっと自分を知ってほしいと思いましたが、緊張で全くうまく答えられませんでした。もし何か印象に残ったのであれば、また話す機会をください」


 と、訳の分からない返事をする始末。

 帰りのバスで、あーもうダメだな、と感じたわけです。ありゃあ、俺が面接官でも取らんな。

 正直、面接する前は受かるとナメていたと思う。その商業施設の内情を知っているし、同じ場所でならお得意様も呼べる。その企業側も従業員を欲しがっているとなると、相当な異常者でない限り雇うだろうと甘く考えていた。当然商業施設側の運営担当も、そのまま働いてくれるだろうと言っていた。紹介されているという謎の安心感もあった。

 しばらく面接なんてされてこなかったから、忘れていた。


 自分は自己PRが苦手だ。


 アピールしたいところはいくらでもある。でも自分から言うのは苦手なのだ。店長会でも謙虚な言葉を使いつつ、社長相手でも言いたいことは言えるタイプだ。そこには嫌われてもいいが、ここでしっかりと意見を言えるのが自分の良いところだ、と自分では思っている。でも、それは社長もどんな人間か知ってくれているから言えるのでもある。

 結局、自分は周りに助けられている部分が多いのだろう。


 でもまっさらな場で、僕という人間を知らない人に「自分ってこんなにできる奴なんですよ」というのが恥ずかしくてならない。何もアピールしない前に「あとは仕事で見てください」なんて言ってしまう。

 あちら側からすると、それは雇ってからだ、まずは雇ってもいい逸材が教えてくれ、ということなのだろう。


 それが、苦手だ。


 しまいには、自分がどんな人間かすらわからなくなってくる。


 そして結果は不採用。しゃーないな、と思いつつも、わかってもらえない自分の不甲斐なさに腹が立ちつつ、わかんねえ奴にわかってもらいたくねえと苛立ってみたり、なんで自分のことが言えないのだろうと凹むのでありました。


 みなさん、自分の良いところって、アピールできますか?


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