第48話 自分の読みたいもの

 よく『自分の読みたい小説を書く』と言われますが、もちろん『こういう作品があったらいいな』『俺だったら、こういうのを書く!』なんて意気込んで書いていたりします。


 でも、『読みたいか』と聞かれると、正直わかんない。読みたい、読みたくない、の判断がなんかしっくりこない。


 ミュージシャンの人も「自分が聴きたい曲を作る』と思って曲を書いてるのだろうか。自分が歌いたいから作るのであって、それを聴かせたいから歌ってあるのではなかろうか。自分の作った曲を聴いて、出来栄えに満足することはあっても、『聴きたいか?』と聞かれたら、またそれは別次元の話のような気がする。中には自分が作ったバラードをうっとりして聴いている人もいるかもしれないが。


 料理の場合で考えてみよう。

 献立を考えて、家族に食べさせる、それで美味いと言ってもらえるものを作りたい。じゃあ、その美味いと言ってもらえるものは、わりと自分が食べたい物だったりする。

 そして自分の食べたいものを、更に美味くなるよう極めたくなる。使ったことのない調味料を使ってみよう。料理のアプリで新しいメニューを開拓してみよう。有名シェフのマネをしてみよう。盛り付けでもよく見えるように、新しい皿を買おう。僕はそんなに好きじゃないが、妻はイカが好きなのでイカを使った料理をしてみよう。息子はチーズが好きだから、娘は梅味を好んでいる、などなど。

 そういうのを全部含めて、やっぱり自分も食べるので、自分が食べたいものを作る。


 きっと小説もそうだ。

 書いたことのないアプローチに挑戦したり、有名作家の本を読んで参考にしたり、いい感じに見える舞台やセリフを考えたり。読む人はこういうのが好むのかな、今話題のネタは何かな、と考えたり。


 だけど、読みたいものか、と聞かれると、やっぱりウーンと考えてしまう。書くのだけで精一杯で、自分の作品を振り返って読んでみると、悩んでしまう。推敲は、苦しい。自分が「これだ!」と思って書いたものを否定的に、もしくは客観的に見るのが上手くいかない。客観的に見れば見るほど、「こんなの、面白いか?」と否定的になってしまうことがある。直すところがたくさんありすぎて、どこを直したらいいのか、そのままでいいのか迷ってしまう。

 1つ直すと止まれなくなってしまう時がある。ちょっと塩気が強いかな、と思って砂糖入れたり水で薄めたりしてグチャグチャになって、取り返しのつかないことになる。


 小説を書く、ということは割と一方的な作業に思える。


「私の書いた作品をどう感じようと読み手の自由です」なんて言う作家さんがいる。これ、すごく正解な気がしている。「俺が書いたものは最高に面白いんだから、読みたい奴は勝手に読め!わかんねえ奴は読むな!」という自信たっぷりな言葉に聞こえる。本当はたくさんの人に読んでもらいたいけど、作家のプライドで頭を下げてまで読んでもらいたくはない、と取られてしまう。

 でも本当は書きたいことを書いただけで、たくさんの人に読んでもらいたいけど、読みたくない人にはその時間を使っていただくのも申し訳ない。機会があれば、読んでくれるといいな、くらいの気持ちじゃないだろうか。

 それを自分が読みたい作品かどうかと聞くのは愚問のような気がする。

 まあ自分自身が読みたいと思えないものを人様に読んでいただくのは失礼じゃないか、ということなんだろうけど。


 でも、自分はなんで小説書いていて、なにをもって面白いかなと思ってるのかと聞かれたら、


「こんな映像を見たい」


 と思って書いている。こんなアクションを見たい。この役を滝藤賢一がやってくれたら見たい。そう思って書いていることが多い。


 じゃあ脚本家になれよ、と言われるとシナリオはシナリオで結構たいへん。セリフだけ書いてれば良いというもんでもない。僕みたいにセリフに対しても補足したくなっちゃうタイプはシナリオを書けない。


 じゃあ映画監督目指しなさいよ、と言われたら、もっと自信がない。カメラなんか触ったことないし、好きな俳優さんを目の前にして演技指導なんかできるわけがない。素人集めて自主制作映画撮ればいいじゃないかと言われたら、自分が素人のくせして「演技下手だな」なんて生意気なことを思ってしまうかもしれない。


 自分勝手に人を動かせて、リアリティを求めつつも有る事無い事自由に書ける小説が性に合っている。というか、手っ取り早かったのかもしれない。

 手っ取り早いって、小説をナメるなよ!って思われると思いますが、今の世の中パソコンが無くたってスマホで書けちゃう時代です。


 そんな甘い考えで、たくさんの人に読んでいただける小説が書ける日がくるのだろうか。

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