君へ

星野雨

第1話

昼ごはんを食べた後、私はさっきやっと書き終えた手紙を封筒に入れた。最近腕に力がうまく入らない。手紙一つ書き上げるのに2週間もかかってしまった。封筒にあの子の名前を書いて、今やっている戦隊モノのシールを貼る。

あの子がこの手紙を開ける頃にはこのシール古いだろうか?

まぁ、いいか。

綺麗にシールを貼って、やっと完成。

ここ数日眠気がすごい。鎮痛剤のせいだろうか。私は大きく欠伸して、目を閉じた。


目を覚ました時、ベットの横に夫がいた。

「おはよ。よく寝れた?」

「うん。あの子は?」

私には息子がいる。まだ生まれてから1ヶ月半しか経ってない小さな息子が。だけどまだ、5回ほどしか会えてない。

「ごめん。感染対策がどうちゃらこうちゃらで連れて来れなかった。」

「そっか。」

私は窓の外を見る。はらっぱで遊ぶ子供たちが見える。子供たちを見てあの子の成長した姿を想像してしまう。悲しくなるだけなのに。

「あのさ、私、あの子に手紙書いたの。あの子が大きくなったら渡して欲しいの。」

さっき完成した手紙を渡す。

「絶対渡してよ。」

「うん。わかった。」

「ねぇ、拓哉。あの子のことよろしくね。」

「俺だけで、しっかり育てられるかなぁ。」

「うん。拓哉なら、大丈夫だよ。」

私は微笑む。夫も微笑む。


夫が帰ってから、1人で泣いた。

泣いて、泣いて、泣き疲れて、私は静かに深い眠りについた。


『成長した君へ

多分、私はもうすぐいなくなります。だからこれを残しておきます。

まずは、生まれてきてくれて本当にありがとう。君の泣き声を聞いた時、本当に嬉しかった。君の手、本当に小さかったな。

次の日から、ちょっと体調崩しちゃって、君に会えたのは5日後。君にやっと会えた時、少し涙が出ちゃった。

君の名前、2人で樹に決めました。大きな木のように立派に丈夫に育って、たくさんの葉をつけていって欲しいな。

生まれて1週間後、君は退院。我が家へようこそ。パパが君の世話、しっかりやれてるかな?いいな、私も一緒に暮らしたかったな。

生まれて2週間後。私は本当に君の写真に勇気をもらっています。ありがとう。早く会いたいな。

1ヵ月。もう君が生まれてから1ヵ月立つんだね。なんか早いな。君のお宮参りの写真見たよ。一緒にいけなくてごめんね。

1ヵ月半。パパの育児技術が上達したんだって、お母さんから聞いたよ。私も少しでもいいから育児したかったな。パパ、樹のこと全部任せちゃってごめんね。あと、よろしくね、頼んだよ。

2ヵ月。君は声を出すようになってるのかな?君の声、一度でいいから聞いてみたかったな。

8ヵ月。もうハイハイしてるかな。笑顔でハイハイして部屋中動き回ってるんだろうな。

1歳。樹、お誕生日おめでとう。そして、ここまで元気に育ってくれてありがとう。もう立てるのかな?もう何か話せるのかな?1番最初の言葉はやっぱり、パパかな?本当はママがいいけど無理だろうな。でもいつかママって言えるようになったらママの眠ってるところに来てママって言ってね。

一歳半。もう走ったり、階段登ったりするんだろうな。ずっとスポーツをしてきたパパとスポーツを見るのが大好きなママの子だから多分毎日元気に走り回ってるんだろうな。

2歳。もうだいぶ大きくなったよね。保育園は楽しい?友達はできたかなぁ?

3歳。毎日色んな人と色んなことを話すようになったかな。君とお話ししてみたかったな。

5歳。もう立派なお兄さんだよね。体も大きくなって、来年は小学生だもんね。ランドセルの色は決まったかなぁ。黒でも青でも赤でも、もしかしたらピンクでも、君が選んだものが1番君にあってるよ。

6歳。入学おめでとう。これから6年間、病気と怪我には気をつけて、たくさん友達を作って、たくさん勉強してくださいね。

8歳。君にママがいないことで、みんなから悪口とか言われてないかなぁ。ごめんね。ずっと一緒にいられたらよかったんだけど。

10歳。もう10年か。早いね。学校で2分の1成人式とかやったかな。将来の夢とかもきっとあるよね。ぜひ、ママの眠ってるところに来てたくさん話を聞かせてね。

12歳。卒業おめでとう。6年間でとても立派になりましたね。小学校6年間どうでしたか?楽しかったですか。小学校でできた縁を大切にこれからもいろいろなことを頑張ってください。

13歳。入学おめでとう。君の制服姿、本当にかっこいいよ。背は伸びたかなぁ。私、背がちっちゃいからもう抜かされちゃったかな。声は低くなったかな。君の声はパパに似て、カッコいいんだろうな。一度でいいから聞いてみたかったな。

15歳。合格おめでとう。そして、卒業おめでとう。もし第一志望に落ちちゃったとしても、君の努力は絶対無駄にはならないよ。高校生活楽しんでね。

16歳。入学おめでとう。高校生。多分、小学校や中学生の時とは比べものにならないほどたくさんのことを悩んで、たくさんのことを決めていかないといけなくなると思います。そのせいで全てが嫌になることもあると思います。だけど、このことだけは忘れないで、君には君のことを大切に思っているパパとママがいます。パパとママはあなたがどんな選択をしたってずっとあなたの味方です。もし、本当に辛くなったら私の眠ってるところに来て怒りとか悩みとか全部私にぶつけてみてください。答えることはできないけど、聞くことならいくらでもできます。

17歳。帰りに友達とアイス。青春だね。彼女はできた?その人のこと、泣かせちゃダメだからね。

18歳。卒業おめでとう。もう大人だね。こんなに大きくなってくれてありがとう。

20歳。あんなに小さかった君がもう20。大学生なら卒論とか就活で大変かなぁ。大変だとしても夜更かしはしちゃダメ。3食しっかり食べて、運動もするんだよ。

入社、おめでとう。スーツとっても似合ってる。君のネクタイ結んであげたかったな。

仕事には慣れたかな。仕事、毎日大変だよね。本当に辛かったら全然逃げていいんだよ。逃げた先にもしっかり進める道があるんだから。

もう、生涯共にしたい女性とは出会えたかな?

その人のこと、ずっとずっと大切にするんだよ。

結婚おめでとう。背負うべきものができて一段と成長したかな。奥さんと仲良くね。家事、しっかりやるんだよ。

君ももう28歳。私の歳、抜かされちゃったね。ここまで大きな病気もなく、生きてくれて本当にありがとう。これからも病気や事故には気をつけてね。

30歳。私には経験したことのない未知の世界。

君にも子供ができたかなぁ。育児も家事も奥さんに任せちゃダメ。君は親なんだからしっかりやるんだよ。

40歳。もうおじさんの仲間入りかなぁ。悩みは子供達のことかな。

50歳。すごいね。半世紀も君は生きたのか。お墓に来てくれてもすぐにわかってあげられるかなぁ。それがとても心配です。

65歳。もうすぐ定年退職だよね。40年以上お疲れ様でした。辛い日も、悔しい日も、消えたい日もたくさんあったと思います。よく乗り越えましたね。本当に偉い。ママは君のことを誇りに思っています。

あとパパへ。子育て本当にありがとう。あなたに久しぶりに会えて本当に嬉しいよ。

君へ、2人で仲良く君のことを見ています。泣かないで毎日元気に過ごしてください。

70歳。老後は楽しいかい?おやおや、その顔は不満げだな。やりたいこと、全部やるんだよ。

80歳。あんなに小さかった君がもうシワシワに。シワシワの君もかっこいいよ。

90歳。君もようやく私たちのところへ来るんだね。多分、自己紹介が必要だよね。私、自己紹介苦手なんだよね。君を前にして上手くできるかなぁ。失敗したとしても笑って見逃してね。


なんて、最後の方勝手に想像して書いちゃった。

最後に3つ、あなたに伝えたいことがあります。

1、君の人生は君だけのものです。誰になんて言われようとそれは変わりません。ぜひ、自分の人生を楽しんでください。

2、どんなことがあったって君は1人じゃない。ママは何もできないけど、いつだって君のそばにいるし、君の味方です。

3、生まれてきてくれて本当にありがとう。あなたのことが大好きです。

では、お空から君のことを見ています。』


墓の前にしゃがんで手を合わせる男子高校生。

「なぁ、母さん。母さんの手紙、読んだよ。最近ずっと全然時間がなくて母さんのとこに来れなくてごめんね。僕、行きたかった大学受かって、高校卒業したよ。」

男子高校生は立って墓の前で一回転する。

「大きくなっただろ。僕、大学卒業したら、外資系の会社に就職したいんだ。これから4年間めっちゃ頑張るから、母さん、見守っててね。」

男子高校生は笑う。

「樹、しっかり伝えたか?」

「ああ。」

男子高校生がいた場所に今度は50代くらいの男性が立つ。

「桜、あいつ、大きくなっただろ。ごめんな。本当はもっと早く手紙渡すつもりだったんだけど今日になっちゃった。」

男性は墓を撫でる。

「俺、ちゃんと育てられただろ。」

強い風が吹く。どこからか桜の花びらが飛んできて男性の手に落ちる。

男性は笑う。

「じゃあな、桜。またすぐ来るからな。」

男子は男子高校生の方を向く。

「樹、行こっか。帰りに美味しいものでも食べて帰ろう。」

「まじで。よっしゃ。」

そんな2人の後ろ姿を見ながら、桜は嬉し涙を流していた。

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君へ 星野雨 @hoshinoame

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