マトリョーシカの秘密

*うみゆりぃ*

第1話 マトリョーシカの秘密

時期はちょうどクリスマス

タワーの足元で

毎年クリスマスマーケットが行われている


「スカイツリーを制覇したから、次は東京タワーね」


一度でいいから

”あなた” と来てみたかったの



手を繋いで

恋人っぽく


今日はわたしが

あなたの手を引いて


こっちいこう

あっち見たい


と連れまわす



手を引かれるのが好き

だけど


手を引っぱって歩くのも

案外悪くないわ



ライトアップされた輝くツリーの林を抜けると

オーナメントやキャンドルが煌く雑貨店のブースが並ぶ


いくつかのお店を通り過ぎて一番奥へ入ったところに

ロシアの雑貨店があった


なぜ、ロシアってわかったのかって?


不思議な魅力のキャンドルの他に

マトリョーシカがたくさん飾られていたからよ



「ねぇ、マトリョーシカって知ってる? 」


”あなた” に聞いてみるの







マトリョーシカには秘密があるのよ


一見して一体の人形だけれども

上胴体を持ち上げてみて


そう、

真っ二つに

まるで首を捥ぐように


すると

瓜二つ同じ姿の

一回り小さな人形が出てくるの


どう?

奇妙に感じないかしら



その一回り小さな人形も

同じように首を捥いでやれば

瓜二つ同じ姿の

さらに一回り小さな人形が出てくる


ね?

気味が悪いでしょう



でも不思議ね

なぜか心が高揚してくるような

「優越感」



自分よりわずかに小さい人を

低く見る


自分はまだ大丈夫だと

胸をなでおろす


わずかに小さい人は

さらにわずかに小さい人を

見下しては


自分はまだマシだと

安堵する



なぜ人は

人と人を比べたがるのかしら


比較するだけならまだしも

そこへ優劣をつけようとする

醜き高慢さよ



マトリョーシカの中の人形全てが

なぜ同じ姿をしているのか

わかるかしら?


それは

複数に見えても

一人だから



下に見ていたのは

見栄を捨てた後の自分自身


自らを大きく見せようと

何枚も何枚も虚栄の鎧を纏い


本当の自分は誰にも見せない


心の奥底に隠してあるのだと

言わんばかりに同じ顔が続く



SNSを使い

実生活の自分を虚像〈アイコン〉で覆いながら

実生活の姿じゃ言えない想いを

吐露する


それって、あなたなの?

それとも、虚像なの?


評価されているその言葉は

本当のあなたから想い出された言葉なのかしら



あなた自身がわかっているのなら

わたしにとっては

実像だろうが虚像だろうが

どうでもいいことなのよ



ただ


散らかってしまった

サイズの違うマトリョーシカたちを

もと通りの一体に

戻せなくなっているようじゃ


自分を見失ってしまうでしょう


そんなの見ていて

とても滑稽だわ



捥いでも捥いでもまだ出てくる

あなた


こんなにちっちゃくなっても

まだ見栄を張ろうとする

かわいいのね



でも、もう大丈夫


ほら、見て

首が捥げない


奥に隠れていた

最後の人形が出てくるわ



あぁ

なんて小さな小さな姿


精巧に細部まで作り込まれた

初めの大きなマトリョーシカと

なんら変わらない



「唯一の美しい完全体」






忘れないで




それが ”あなた”






『マトリョーシカの秘密』



〜END

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