―42― もう遅い
レベルを1で固定する『縛りプレイ』をしている性質上、防御力が低いため一撃でも受けると致命傷になってしまう。
だから、〈繰糸の指輪〉を使った高い機動力を用いて、敵の攻撃をひたすら避け続けながら、隙を見つけ次第攻撃をするという戦法を使っていた。
だが、〈呪いの腕輪〉を外した今、俺のレベルは今もなお上がり続けている。
防御力が高い今なら、どんな攻撃も恐れる必要がない。
端的に言って、今の俺は最強だ。
「それ以上、フィーニャに触れるな」
まずは、フィーニャの救出。
だから、フィーニャの元へとゆっくりと歩く。
「させるかっ!」
「コロスッ!」
左右から、二人の暗殺者が息を合わせるように同時に襲いかかってくる。
それを俺は両手で弾き飛ばす。
そして、フィーニャを地面に押さえつけている男の腕を掴み、反対側に曲げる。
「うがぁ!」
うめき声をあげている男の顔を蹴り上げて、昏倒させる。
「あるじー! すまぬっ、わらわが捕まったばかりに」
「俺のほうこそ悪いな。怖い思いをさせた」
今度こそ、フィーニャを奪われないように、片手で抱える。
「それで、暗殺ギルドだっけ? 誰の依頼で、俺たちを襲うんだ?」
振り向きがちにそう問いただす。
すると、皆がビクッと体を震わせた。
「怯むなっ! 全員で攻撃しろ!」
リーダーらしき人物がそう命じる。
すると、仮面の集団が短剣を手に一斉に襲いかかってくる。
「なにも怖くないな」
今の俺なら、こいつらを全員倒せることが容易に想像できる。
結果がわかっている戦いってのはこんなにもつまらないんだな。
だが、手を抜くつもりはない。
なにせ、今の俺はとてもブチ切れてる。
◆
「なんなのだ……こいつは?」
暗殺ギルドの一人がそう吐露した。
次々と同胞がつぶされていく現状を目のあたりにしていたからだ。
まず、ユレンの動きがとてもついていけるものではなかった。
糸のようなものを使った立体的な動き。
戦っている場所が路地裏であるせいだ。糸で建物の壁にへばりついたりすることで、立体的な動きを可能としていた。
この動きをされると、誰の手にも負えない。
「がはっ」
また、同胞の一人がやられた。
見ると、その隣に短剣を握ったユレンが。
ユレンがこっちを見る。
目があった。
次は自分の番だ。
「うわぁああああああ!!!」
一目散に背を向けて逃げようとする。
こいつには勝てない。
そう本能が告げていたのだ。
だから、恥も外聞も捨てて逃げることにした。
「おい、逃げるなよ」
そう聞こえたと思ったら、体が引っ張られる。
見ると、ユレンが出したであろう糸が体に付着していた。
この糸のせいで、前に進めない。
だから、糸を斬らないと。そう思い、短剣を取り出すが、そのときは、ユレンが目の前にいた。
「がはっ」
殴られた途端、壁まで体が吹き飛ばされ昏倒させられる。
「くそっ、こんな化物を相手にするなんて聞いてねぇぞ!」
暗殺ギルド一人が叫び声をあげていた。
こんなことなら参加するんじゃなかった、と後悔するが今更もう遅い。
気がつけば、近くにユレンが立っていた。
「お、俺はただ依頼されただけで、本当は殺すつもりはなかったんだ! だから、許してくれッ!」
恐怖のあまり言葉が震える。
涙と鼻水のせいで顔はぐちゃぐちゃだ。恥も外聞もない。
それでも、生きたい一心で命乞いをする。
「あっそう」
無情にもユレンはそう言葉を吐き捨てると、男を殴っては昏倒させた。
「くそっ、なにがどうなってやがる……!?」
暗殺ギルドのリーダーは言葉を吐き捨てる。
ターゲットがこれほど強いなんて、完全に想定外だ。こんなことなら、依頼を請けなかったらよかったが、そんなことを今更思っても仕方がない。
「うそだ、うそだ、うそだ、うそだ……ッ!」
同胞の一人が言葉を繰り返しながら、歯をカチカチと鳴らしていた。
なにかに恐怖している様子だ。
「一体、どうした?」
リーダーは同胞にそう尋ねる。
「〈鑑定〉したんです……」
すると、同胞は肩を震わせながら答えた。
ユレンを〈鑑定〉したんであろうことは、すぐに察知する。
「それで、どうだったんだ……?」
「な、なんと、あいつのレベルが――」
最後まで言葉を聞くことができなかった。
というのも、突然目の前に現れたユレンがそいつを殴り飛ばしたから。
「あんたが、リーダーか?」
ふと、話しかけられる。
「……それは答えられないな」
と、強気に発言するが内心は恐ろしいという感情で占められていた。
「あぁ、そう」
と、ユレンは無関心を装ったかのような返事をする。
なにを考えているのかわからない、それがこうして話してみて抱いた感想だった。
「まぁ、でもさ、お前は他のやつらよりは少しはやるんだろ?」
短剣をこちらに向けながらユレンはそう呟いた。
「さぁ、どうだろうね?」
とぼけたフリをする。
とはいえ、とぼけても意味がないことはわかっていた。恐らく、〈鑑定〉でもして自分のレベルを見られたのだろう。
「まぁ、いい。少しは俺のことを楽しませてくれよ」
そう言って、ユレンはニタリと笑った。その笑みが、あまりにも恐ろしくて体が震えた。
周りを見る。
どうやら、自分以外の同胞はすべてやられてしまったらしい。
「くそっ」
そう言葉を吐き捨てながら、暗殺ギルドのリーダーは短剣を握る。
最悪、相討ちでもいい。
なんとしてでも、相手に傷を負わせてやる。
「〈ディスピア・スラー〉」
間髪入れずに自分の中で最強のスキルを発動させる。
〈ディスピア・スラー〉の効果。それは、一瞬、自身の気配を消して、相手が見失っているうちに殺すというもの。
このスキルで、今までどんな強敵の冒険者も闇に葬ってきた。
(よしっ、自分の様子に気がついていない……っ!)
ユレンはそっぽを向いており、自分に気がついていない様子。
確実に、殺せる。そう思い、短剣を振るった。
「あぁ、そこにいたのか」
それは男にとって絶望の声だった。
ユレンはこっちを向いて、今にも殴りかかろうとしていた。
(なんで……? 確かに、自分は急所を確実に切り裂いたのに、平気な顔をしていられるんだ)
そして、一つの可能性に思い至る。
(まさか、それほどのレベル差があるというのか……?)
圧倒的なレベル差があれば、急所を攻撃しても相手にダメージがいかないのも納得できる。
だから、リーダーはとっさに〈鑑定〉した。
「なん、だと……!?」
ユレンのレベルを知って、思わずそう言葉を漏らす。
それほど、ユレンのレベルは圧倒的だった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
〈ユレン・メルカデル〉
ジョブ:錬金術師
レベル:1036
△△△△△△△△△△△△△△△
自分のレベルを倍にしても届かない。
これは、最初から勝てるはずがない戦いだったのだ。
こんな化物がいるなら、依頼を請けなければよかった。
それを今更悟っても、もう遅いわけだが。
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