―41― 理由

 俺は『縛りプレイ』が好きだ。

 なぜ、『縛りプレイ』が好きなのか? 一見、無謀だと思えるような敵に挑む、あの緊張感が好きだからだ。

 少しでも、ミスをすれば致命傷になる。

 その緊張感が俺に興奮をもたらしてくれる。

 だから、ピンチになればなるほど俺は快感を覚えるし、逆境をひっくり返したときの爽快感は何事にも代えがたい。

 だから、『縛りプレイ』が好きだし、今後も『縛りプレイ』を続けていきたい。


 そして、今まさにピンチだった。

 帰り道、仮面の集団に襲われた。

 仮面の集団は足音だけでも、熟練の戦士だってことがわかる。

 試しに〈鑑定〉してみる。

 すると、なんらかのスキルのせいか靄がかかっていて、はっきりと名前を読み取ることができないが、しかし、レベルに限ってはなんとなくだが把握できた。

 低いやつでも、レベルは150以上はある。

 一番高いやつだと、レベルが400にも達していた。

 そんな高レベルの集団が、十数人もいるのだ。

 しかしもフィーニャが人質にとられたせいで、満足に身動きをとることもできない。


「大人しく投降するなら、命まではとりません」


 仮面の集団の一人がそう呟く。


「えーっ、殺しちゃおうよ!」

「命令なんだから、殺しちゃダメだろ」

「別に、よくなーい?」

「ダメよ、大人しくしなさい」

「ケチー」

「まぁ、でも抵抗するっていうなら、痛みつけるのはやぶさかではない」

「じゃ、この少女を殺そうよ」

「まぁ、そっちは殺してもいいんだろうけど」

「やめなよ。殺したら人質の意味ないじゃん」


 と、仮面の集団は各々好き勝手なことを言い合う。

 指揮系統が曖昧なのか、それとも俺を怖がらせるのが目的なのか。一体、どちらなんだろうな。


「お前たちは何者なんだ?」

「キヒヒッ、僕たちは暗殺ギルドでーす」


 誰かがそう口にした。

 暗殺ギルド。存在だけは聞いた事がある。

 暗殺の依頼を請け負う闇のギルドがある、と。てっきり、架空の存在だと思っていたが。まさか、本当にあったとはな。


「誰かの依頼で、俺のことを襲いにきたのか?」

「それについては答えられませんねぇ」


 まぁ、大方父親が俺を拉致するよう、暗殺ギルドを雇ったのだろう。

 それぐらいしか、俺が暗殺ギルドに目をつけられる心当たりがないからな。


あるじーッ! わらわのことは置いて逃げるのだッ!」

「おい、余計なことはしゃべるな」

「むぐっ」


 フィーニャを羽交い締めにしていた男がフィーニャがしゃべることができないように口をふさいだ。


「それじゃ、おしゃべりはこのへんで」

「抵抗しなければ、痛くしないようにしてあげるねっ!」

「コロス」

「ダメよー、殺したら」

「間違えて殺しちゃうのは?」

「それなら、いいんじゃない」


 そう言って、仮面の集団は武器を取り出し構える。


「おっと、手が滑っちゃった」


 その声が聞こえた同時、後ろから斬りつけられる。

 接近されたというのに、そのことに全く気がつかなかった。流石、暗殺ギルドと称すべきなのか、気配を消して移動するぐらい容易なんだろう。

 斬られたと思った次の瞬間、別方向から衝撃が。誰かに蹴られたという気づいたときには、すでに体は宙を舞っている。


「ぐはっ」


 俺は呻き声をあげながら、壁に激突していた。

 まずいっ、反応がそう叫ぶ。

 すでに、暗殺ギルドの者が畳みかけるように攻撃をしようと、近づいてくる。

 ひとまず、〈繰糸の指輪〉を使って、この場から脱出しないと。

 そう思い、指輪から糸を出しては移動しようとして――。


「不思議な糸を使うことは調査済みなんだよね」


 糸が斬られる感触を味わう。


「はい、残念っ!」


 そう言って、殴られる。


「ひとまず、意識がなくなるまで殴ろうか。ねっ、それならいいでしょ?」

「あぁ、いいだろう」


 そんな会話をすると、俺のことを両手で交互に殴り始めた。なすすべもなく俺は殴られ続けた。


「む、むぐぅ――ッ!」


 口を塞がれたフィーニャがなにか訴えようとしたのか、うめき声が聞こえた。


「おい、大人しくしろ!」


 と、フィーニャを羽交い締めにしていた男がフィーニャのことを地面に押さえつける。すると、フィーニャが「うぐっ」と悲鳴をあげた。


「ねぇ、この子は殺しちゃったら?」

「だが、それだと人質の意味が」

「もう、こうなったら関係ないでしょ」


 と、そんな会話が聞こえる。

 フィーニャに対して言っているであろうことは明らか。


「あれ? もう死んじゃった?」


 ふと、俺を殴っていた者がそう言って手をとめた。

 さっきから俺は微動だにしないから、そう思われたんだろう。

 殴られたせいか、さっきから全身が痛みで腫れ上がっている。まだ、こうして意識を保っているのが不思議なぐらいだ。

 俺がさっきから動かないのにはわけがあった。


「なぁ、なんで俺は今、楽しくないんだ――?」


 自分に問いかけるようにそう呟く。

 そう、さっきからその疑問で頭が一杯で、動けずにいたのだ。


 今まで、たくさんピンチな目にあってきた。

 その度に俺の心はワクワクしていた。

 そして、今自分史上一番のピンチな目にあっている。

 一番低くてレベルが150以上、高くてレベルが400近く。それだけ高レベルの暗殺者が集団となって、俺を襲っている。

 しかも、フィーニャを人質にとられたせいで、反撃するのも難しい。

 これ以上の危機的状況がないんじゃないかと断言できるほど、今まさにピンチだ。

 だから、この状況はまさに俺が求めていたはずの状況なのだが――。

 やはり、楽しくない。


「はぁ、なにを言ってんの? こいつ」


 俺の疑問に対して、男は眉をひそめる。


「む、むぅーッ!!」


 ふと、声が聞こえる。

 口を押さえられたフィーニャがなにかを訴えようと、必死になって口を動かしていたのだ。


「あぁ、そうか――」


 心が踊らない原因に、思い至った俺はそう呟いた。


「俺、今サイコーに腹が立っているんだ」


 そのことにやっと気がついて、自分の中にあったわだかまりが解消されたのを覚える。

 そう、俺はこの暗殺ギルドとかいうふざけた集団に対して、腹わたが煮えくり返りそうなほど、アタマに来ているんだ。

 怒りと楽しいは相反する感情だ。

 腹が立っている今、楽しいなんて思えるはずがない。


「よく、わかんないけど、死ねよッ!」


 そう言って、男は短剣を突き刺すように振るう。

 フィーニャを殺す、と誰かが言っていた。

 そんなこと、この俺が許すはずがないだろ。

 だから、俺はゆっくりとあることをした。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


〈呪いの腕輪〉が解除されました。


 △△△△△△△△△△△△△△△


 そう、俺は腕にずっとはめていた〈呪いの腕輪〉を放り投げたのだ。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


〈呪いの腕輪〉の解除に伴い、レベル1の固定が破棄されました。

 これまで獲得した経験値が全て反映されます。


 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

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 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 レベルがあがりました。

 …………………………………………………………………。


 △△△△△△△△△△△△△△△


 延々と「レベルがあがりました」というメッセージが流れ始める。

 その通知は途切れることがなく、ステータスが放つ光で目が眩んでしまいそうなほどだった。


「なんだ、これは……!?」

「おい、どうなってやがる!?」


 誰もが異変に気がつく。

 だが、もうすでになにかもが手遅れだ。


「おい、なんだ、こいつ!? びくともしねぇ!」


 そう言った仮面の人物は刃物を俺に突き刺していた。その鋭利な刃物を俺は手のひらで握っていた。

 レベルがあがった今なら高い防御力のおかげで、素手で刃物を握ることができる。


「グボバッ!」


 もう一方の拳でそいつを殴ると、はるか彼方まで吹き飛んでいった。

 そして、俺はゆっくりと宣言する。


「お前ら、全員、今から地獄に落とす」


 と。


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