―40― 漆黒

「なぁ、おぬしー。今日はどうするのじゃー?」


 ベッドでぼうっとしていると、後ろからフィーニャが抱きついてきた。


「そうだな……」


 とか言いつつ、考える。

 最近戦ってばかりだし、少し疲れたな。


「たまには、休みにしてもいいかもな」

「おぉ、休みだと! わらわはそれなら行きたいところあるのじゃ!」


 興奮したフィーニャが肩を揺らしてくる。

 落ち着け、と言いかけて、フィーニャがコロンと膝の上に落ちてきた。

 すると、ちょうどフィーニャの顔が俺の真下にあった。


「おい、わらわの顔をじろじろと見るな」


 と、少し恥ずかしそうにフィーニャがそう言う。


「いや、獣の耳が柔らかそうだな、と思ってな」

「あぁ、これのことか」


 フィーニャが自分の頭についている狐の耳を指さす。


「触ってもいいか?」

「まぁ、別に構わぬが」


 許可もおりたことだし、獣の耳を触ってみる。

 おぉ、これは柔らかくて触り心地が最高だな。ずっと触っていたいと思うほど、ハマりそうだ。


「ぬっ、うん……っ、あうっ、あるじー、それ以上はやめてほしいのじゃ……」

「あっ、悪い」


 慌てて手を放す。

 なぜか、フィーニャは火照ったような表情をしていた。


「それで、フィーニャはどこに行きたいんだ?」


 話題を変えようと、そう話しかける。


「おーっ、わらわの行きたいところなら、たくさんあるぞーっ!」


 と、フィーニャはいつもの表情に戻って、そう叫んだ。





「みーつけた」


 太陽が落ち、夜と共に漆黒が広がった世界。

 屋根の上に複数人の集団がいた。

 その集団にはある特徴があった。その全員が黒いローブを身につけ仮面を身につけていた。

 暗殺ギルドのメンバーたちだ。


「あれが今回の標的か……」


 全員の視線の先には、ユレンとフィーニャが一緒に歩いていた。


「少女もいるな」

「あの女も標的か?」

「いや、あの少女は標的に含まれていない」

「なら、殺しちゃおうよ」

「コロス」

「少女のほうは殺しても構わんな」


 と、仮面の集団はお互いに意見を言い合う。


「男は殺しちゃダメなのー?」

「男のほうは拉致しろって依頼だ。だから、殺していけない」

「えーっ、つまんないのー」

「拉致か、めんどいわね」

「間違って殺しちゃうかも」

「コロス。絶対にコロス」

「ねぇ、それより早く襲っちゃおうよ」

「それも、そうだな」

「今なら、誰にも見られないで殺すことができる」

「だから、殺しちゃダメなんだって」

「もう、どっちでもいいじゃん!」

「ねぇ、誰が最初に殺せるか勝負しようよ」

「いいねぇ、のった」

「くだらん」

「勝ったら、この前借りたお金をチャラにするっていうならやる」

「えー、どうしよかなーっ」

「そんなことはどうでもいい。標的が移動するぞ」

「それは困った」

「それで、お前ら準備はいいか?」


 無駄話をしているメンバーたちを一喝するかのように、リーダーらしき人物がそう口にした。


「「「いつでも」」」


 途端、全員が声を揃えてそう頷いた。

 次の瞬間、十数名いた仮面の集団は、ユレンとフィーニャたちの前に躍り出た。





「うーむ、お腹いっぱいになったのじゃー!」

「そうか。満足したようで、なによりだよ」


 今日は一日中、フィーニャと街を出歩いていた。

 買い物を済ませた後はレストランで夕食を食べて、その帰り道だった。


 視線を感じる。

 ふと、そう思いながら、立ち止まる。


「どうかしたのか?」


 フィーニャは突然立ち止まった俺を怪訝な表情で見やる。


「いや、気のせいか」


 周囲を観察するがとくになにもなかった。

 どうやらただの思い過ごしのようだ。

 そう思って、数歩進んだ瞬間。

 ザッ、と物音がしたと同時、暗闇の中から集団が現れた。

 気がついたときには、集団に囲まれていることに気がつく。


「動くな。動くと、こいつがどうなるかわからないぞ」

「す、すまぬ! 捕まってしまったのじゃ!」


 見ると、フィーニャが仮面をつけた男に羽交い締めされた状態で、首にナイフを当てられていた。

 仮面をつけた男は一人ではなかった。

 見ると、俺を取り囲んでいる全員が仮面をつけている。

 人数は十人以上はいるか。


「どういうつもりだ?」

「あるお方の命令で、お前さんを拉致にしにきた」


 そう一人の男が告げたのだった。


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