―40― 漆黒
「なぁ、おぬしー。今日はどうするのじゃー?」
ベッドでぼうっとしていると、後ろからフィーニャが抱きついてきた。
「そうだな……」
とか言いつつ、考える。
最近戦ってばかりだし、少し疲れたな。
「たまには、休みにしてもいいかもな」
「おぉ、休みだと! わらわはそれなら行きたいところあるのじゃ!」
興奮したフィーニャが肩を揺らしてくる。
落ち着け、と言いかけて、フィーニャがコロンと膝の上に落ちてきた。
すると、ちょうどフィーニャの顔が俺の真下にあった。
「おい、わらわの顔をじろじろと見るな」
と、少し恥ずかしそうにフィーニャがそう言う。
「いや、獣の耳が柔らかそうだな、と思ってな」
「あぁ、これのことか」
フィーニャが自分の頭についている狐の耳を指さす。
「触ってもいいか?」
「まぁ、別に構わぬが」
許可もおりたことだし、獣の耳を触ってみる。
おぉ、これは柔らかくて触り心地が最高だな。ずっと触っていたいと思うほど、ハマりそうだ。
「ぬっ、うん……っ、あうっ、あるじー、それ以上はやめてほしいのじゃ……」
「あっ、悪い」
慌てて手を放す。
なぜか、フィーニャは火照ったような表情をしていた。
「それで、フィーニャはどこに行きたいんだ?」
話題を変えようと、そう話しかける。
「おーっ、わらわの行きたいところなら、たくさんあるぞーっ!」
と、フィーニャはいつもの表情に戻って、そう叫んだ。
◆
「みーつけた」
太陽が落ち、夜と共に漆黒が広がった世界。
屋根の上に複数人の集団がいた。
その集団にはある特徴があった。その全員が黒いローブを身につけ仮面を身につけていた。
暗殺ギルドのメンバーたちだ。
「あれが今回の標的か……」
全員の視線の先には、ユレンとフィーニャが一緒に歩いていた。
「少女もいるな」
「あの女も標的か?」
「いや、あの少女は標的に含まれていない」
「なら、殺しちゃおうよ」
「コロス」
「少女のほうは殺しても構わんな」
と、仮面の集団はお互いに意見を言い合う。
「男は殺しちゃダメなのー?」
「男のほうは拉致しろって依頼だ。だから、殺していけない」
「えーっ、つまんないのー」
「拉致か、めんどいわね」
「間違って殺しちゃうかも」
「コロス。絶対にコロス」
「ねぇ、それより早く襲っちゃおうよ」
「それも、そうだな」
「今なら、誰にも見られないで殺すことができる」
「だから、殺しちゃダメなんだって」
「もう、どっちでもいいじゃん!」
「ねぇ、誰が最初に殺せるか勝負しようよ」
「いいねぇ、のった」
「くだらん」
「勝ったら、この前借りたお金をチャラにするっていうならやる」
「えー、どうしよかなーっ」
「そんなことはどうでもいい。標的が移動するぞ」
「それは困った」
「それで、お前ら準備はいいか?」
無駄話をしているメンバーたちを一喝するかのように、リーダーらしき人物がそう口にした。
「「「いつでも」」」
途端、全員が声を揃えてそう頷いた。
次の瞬間、十数名いた仮面の集団は、ユレンとフィーニャたちの前に躍り出た。
◆
「うーむ、お腹いっぱいになったのじゃー!」
「そうか。満足したようで、なによりだよ」
今日は一日中、フィーニャと街を出歩いていた。
買い物を済ませた後はレストランで夕食を食べて、その帰り道だった。
視線を感じる。
ふと、そう思いながら、立ち止まる。
「どうかしたのか?」
フィーニャは突然立ち止まった俺を怪訝な表情で見やる。
「いや、気のせいか」
周囲を観察するがとくになにもなかった。
どうやらただの思い過ごしのようだ。
そう思って、数歩進んだ瞬間。
ザッ、と物音がしたと同時、暗闇の中から集団が現れた。
気がついたときには、集団に囲まれていることに気がつく。
「動くな。動くと、こいつがどうなるかわからないぞ」
「す、すまぬ! 捕まってしまったのじゃ!」
見ると、フィーニャが仮面をつけた男に羽交い締めされた状態で、首にナイフを当てられていた。
仮面をつけた男は一人ではなかった。
見ると、俺を取り囲んでいる全員が仮面をつけている。
人数は十人以上はいるか。
「どういうつもりだ?」
「あるお方の命令で、お前さんを拉致にしにきた」
そう一人の男が告げたのだった。
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