レベル１で挑む縛りプレイ！

―３８― 縛りが足りない

　イマノルとの決闘は仕切り直しとなった。

　そして、いくつかのルールが足された。

〈繰糸の指輪〉の禁止、爆弾の禁止、弓矢の禁止、毒の使用の禁止。

　それと、イマノルは明言しなかったが、閃光筒も使えば、文句を言われるに違いないので、禁止ってことでいいだろう。

　どれも俺が一方的に不利になるルールだ。

　とはいえ、構わない。

『縛りプレイ』だと考えれば、これはこれで楽しめる。

「試合、開始！」

　審判が２回目の試合の合図を送った。

　唯一、認められた二本の短剣を両手に構える。

「〈身体能力強化〉〈攻撃力上昇〉〈脚力強化〉」

　さっきと同じスキルをイマノルは発動させる。

「〈クロスインパクト〉ッッ！！」

　さきほど同様、イマノルの全身から光が放たれる。

　一時的に自身の肉体を強化したイマノルは俺へと一直線に直撃する。

　あまりにもわかりやすい攻撃。

「〈パリイ〉」

　スキルを使って、攻撃を受け流す。

　その上で、カウンター。左足を軸に体を回転させた上で、斬りつける――フリをする。

　目録通り、イマノルは攻撃を防ごうと剣を前に突き出す。

　フェイントにひっかかってくれたな。そんなことを思いながら、片足でイマノルの体を蹴りつける。

「ぐはっ」

　蹴られたイマノルはうめき声をあげる。

　その隙を俺は逃さない。

　短剣を投げつけて、まずは牽制。

　投げつけられた短剣から逃れようとイマノルが体を動かしたのを読んで、つま先が顔に当たるよう蹴りをいれる。

「ぐっ」

　蹴られたイマノルは体を地面に倒す。

　鼻から血を流していた。

　昔を思い出すな。

　俺とイマノルは武術の特訓で、よく試合をしていた。

　とはいえ、毎回俺が勝ってしまうため、イマノルがふて腐れたせいでいつしかやらなくなってしまったが。

「立てよ！」

　鼻血を手の甲で拭っているイマノルに対し、思わず怒鳴っていた。

「言われなくても、立つさ！」

　俺に反抗するように、イマノルも大声を出す。

「なぁ、イマノル。まだ、縛りが足りないのか？」

「縛り……？」

「あぁ、俺はあれだけ譲歩してやったのにさぁ！　なのに、今の戦いはなに？　俺になすがままにやられてさぁ！　俺をどれだけ失望させたら、気が済むの？」

「う、うるさいっ！　今のはたまたま調子が悪かっただけだ。僕は剣聖なんだぞ。だから、僕のほうが強くて当たり前だ」

「そうか、そういうことなら、安心した」

　調子が悪かったなら仕方がない。

　次こそは期待しても良さそうだ。

「せっかくだし、武器の使用も禁止にするか」

　そう言って、両手に持っていた二本の鋼竜の短剣を〈アイテムボックス〉にしまう。

「ふざけるな！　僕を舐めるのも大概にしろ！」

　文句を言われる。

　そういうことなら、ナイフを一本だけ使うか。〈アイテムボックス〉からナイフを取り出し、左手で持つ。

「イマノル、次こそは俺を殺すような攻撃をして来いよ」

「言われなくても、そのつもりだ！」

「そうか。失望だけはさせるなよ」

　そう言って、イマノルの攻撃を待つ。

「〈身体能力強化〉〈攻撃力上昇〉〈脚力強化〉」

　さっきも同じのを見た。

「〈クロスインパクト〉ッッ！！」

　また、さっきと同じスキルを使うつもりだ。

　他のスキルを使うつもりはないのだろうか。

　そして、またイマノルは俺に一直線につっこむ。

　あまりにも単調な攻撃。

　避けてくれ、と言っているようなもんだ。

　だから、最低限の動きで避ける。さらには、足を突き出してひっかけ床を転がす。

　案の定、イマノルは前面に倒れるように転がった。

　なにを見せられているんだ、俺は。

　あまりにも弱すぎる。

　あぁ、やばい……腹が立ってきた。

「あのさぁ、イマノル！　さっきから、スキル使ってただただただ、バカ正直に突っ込むだけ。そんな攻撃、簡単に避けられるに決まっているじゃん。もっと、頭使えよ、頭。ねぇ、お前って馬鹿なの。馬鹿だから、そんな攻撃しかできないの？　もっとあるだろ？　フェイント使うとか、相手の動きに合わせて、使うスキルを変えるとかさぁ。攻撃力がいくら高くたって、敵に攻撃が当たらなかったら、なんの意味もないからね！　宝の持ち腐れって、言葉があるじゃん。まさに、今のお前。あぁ、お前にはがっかりだよ！」

　なんか無性に腹が立ったので、思いつく限りの罵詈雑言を並べてしまった。

「うるさいっ！」

　そう言った、イマノルは涙目になっていた。

「いいや、俺は静かにしないよ！　お前はもっとやるやつだと思ってた！　なのに、なんだこの有様は！」

「うるさいっ！　僕はずっと、兄さんに負け続けていた！　やっと、勝てたと思ったのに違った。今回も僕の負けだ！！」

　イマノルも負けず劣らず叫ぶ。

　まぁ、イマノルも色々と俺に対して思うことはあったのかもしれないが。

「立てよ、イマノル」

「……っ」

「立てよ！」

　もう一度叫ぶと、イマノルは渋々と立ち上がる。

「もう一度相手してやる。今後こそは、殺すつもりで俺にかかってこい！」

「言われずとも、そのつもりだ！」

　そう言って、イマノルは剣を構える。

「〈身体能力強化〉〈攻撃力上昇〉〈脚力強化〉」

　またさっきと同じだ。

「〈クロスインパクト〉！」

　これも、さっきと全く一緒。

　どれだけ俺を失望させれば気が済むんだ。

　イマノルは剣先を突き出して、俺に突撃する。これでは、戦術も何もあったものではない。

　さっきと同様、かわした上で攻撃をしよう。

　そういうわけで、俺は右に体をずらして攻撃を回避する。

　そして、短剣を振りかざそうとして――あることに気がつく。

　イマノルの目線が俺を捉えていることに。

　まさか、今の攻撃はフェイント。本命は別にある！？

　そこまで思考が回ってようやく気がつく。

　イマノルが右足に力を込めていることに。

　なるほど、突き刺す攻撃は俺によけられることを前提に、本命は突き刺した後の振り上げる攻撃ってことか。

　少しはやるようだな。

　だが、まだ甘いな。

　フェイントをやるなら、もっと感づかれないようにやらないと意味がない。

　次の瞬間、俺はしゃがむように転がった。

　そうすれば、イマノルの本命の攻撃をよけることができる。

　そして、剣をふりあげた瞬間、わずかにイマノルは体勢を崩す。

　だから、腰付近にタックルをくれてやると、いとも簡単にイマノルを後方に倒すことができる。

　その上で、俺はイマノルに覆い被されるようにまたがり、短剣をイマノルの首筋に当てた。

「チェックメイトだ」

　そう呟くと、イマノルは悔しそうに歯がみした。

「勝者、ユレン！！」

　審判がそう宣言すると、観客たちが怒号の雄叫びと拍手を鳴らした。

「すげーっ、錬金術師の圧勝だーっ！」

「剣聖はなにもできなかったな」

「あの錬金術師なら、高レベルのモンスターを狩っても不思議ではないな」

「それに対して、イマノル様にはがっかりだわー」

「剣聖があそこまで弱いと、将来が不安だね」

　と、観客たちの声が聞こえてくる。

　皆、俺を褒め称え、イマノルには失望していた。

「くそっ、僕は永遠に兄さんには勝てないのか！」

　イマノルが悔しそうに叫ぶ。

「最後の攻撃はよかった」

「え……？」

　俺が褒めてやると、イマノルは見開いた目で俺のことを見る。

「最後の攻撃、少しでも俺の反応が遅れていたら、お前の勝ちだった。だから、お前は筋がいいよ」

「……そうかよっ」

「イマノルは剣聖なんだろ。だったら、お前には才能はあるはずだ。だから、もっと励めよ。そして、いつか俺を倒せるぐらいの実力者になれ」

「兄さんに言われなくても、僕はそのつもりだ」

「そうか、なら安心した」

　イマノルに闘志が宿ったのを確認する。

　もし、イマノルが強くなったら、また戦おう。そのときは俺をもっと楽しませてくれ。

「約束だぞ」

「あぁ」

　そう言って、俺たちは拳を合わせた。