―35― 宣戦布告
「あるじー、わらわに甘えるのもほどほどにするんだぞー」
その言葉と共に、目を覚ます。
見ると、隣のベッドで寝ていたはずのフィーニャが自分のベッドに潜り込んでは寝言を口にしていた。
一体、どんな夢を見ているんだよ。
そんなことを思いつつ、上に重なるように寝ているフィーニャをどかしてから起き上がる。
すると、フィーニャは目をごしごしとさせて、起き上がろうとしていた。
「ほら、フィーニャ。すぐ出かけるぞ」
「わかったのじゃ……」
まだおぼろげなのか、返事がはっきりしていない。
ひとまず、換金できるようになったか確認するために、冒険者ギルドを尋ねてみようか。
「ユレン殿、来るのを待っておりました」
ギルドに入って早々、ギルドマスターが俺の元にやってきてはそう口にした。
「それで、どうなりましたか?」
「それが少し面倒なことになりましてね」
「面倒なことですか……」
「ええ、実を言うと、メルカデル伯爵様の息子、イマノル様があなたに決闘を申し込んだんですよ」
「はぁ」
あまりにも唐突な展開に、呆けた声を出してしまう。
「なんとも、メルカデル伯爵様はユレン殿の実力を疑っているらしく、それならば決闘にて実力を証明してみせよ、とのことらしいです」
「……そういうことですか」
「それで、どうされますか?」
「もちろん、決闘は受けて立ちますが」
「おぉ、引き受けてくれますか! もし、断られたらどうしようかと、困ってましたので一安心ですね。それに、ユレン殿の実力なら勝つに違いありません」
「油断はできませんよ。なにせ、相手は剣聖ですしね」
そう言いつつ、俺は口元がニヤけてしまいそうなのを必死に抑えていた。
いいね、決闘。
前回、ジョナスと決闘したときは途中で打ち切られてしまったので不満だったのだ。
イマノルは剣聖だし、さぞ強いに違いない。
そう思うと、今から楽しみだ。
「それで、決闘はいつやるんですか?」
「それは、三日後とのことです」
「わかりました」
そんなわけで、俺とイマノルが決闘することが決まった。
父さんは、この決闘を大々的に行ないたいらしく、ビラを配ったりして、大勢に周知させていた。
新人の冒険者の中で様々な功績をあげている俺と剣聖のイマノル、どちらが強いのか? といううたい文句を使って、宣伝していた。
しかし、それはあくまでも表向きの宣伝で、実際には、レベル1の冒険者なのにズルをして功績をあげている冒険者を、剣聖であるイマノルが成敗するというシナリオも皆に広がるよう仕組んでいた。
さらには、俺がメルカデル家を追放されたという噂もどこからか広まったようで、今回の決闘が兄弟対決であることも周知の事実となった。
なので、もし、イマノルが負けたら、俺を追放したメルカデル伯爵家が無能であるということになり、逆に俺が負けたら、俺のこれまでの功績が全部嘘っぱちだということになる。
そんなわけで、市民らは非常に決闘の行方を注目するに至ったわけだ。
「どうやら、向こうは負けるとは思っていないらしいな」
ふと、熱狂的になる市民たちを見ながら、そんなことを呟く。
俺が元メルカデル家の長男坊であることを広めたのは父親の仕業だろう。
もし、イマノルが負けたら自分の沽券に関わるが、それでも広めたのは、よほど自信があるからに違いない。
わざわざ広めたのは、それほどまでして市民の注目を集めたいから。
父親は俺が大勢に見守られる中で敗北をさせたいらしい。
「まぁ、俺としては自分が勝とうが負けようがどっちでもいいんだけどな」
俺の望みはただ一つ。
楽しむことだ。
だから、イマノル。俺を楽しませろよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます